HELLSING episode 10
01 ナレーション アンデルセンとの激闘を終えたアーカードの前に、一人の若き執事(バトラー)が空中より舞い降りアンデルセンの石灰となった亡骸を踏みつけた。
インテグラ ウ・・・ウォルター!ウォルターなのか!?
ウォルター ゴミです。人は死ねばゴミになる、ゴミに弔(とむら)いは必要ありません、そうだろう インテグラ。
インテグラ ウォルター。
セラス ウォルターさん!奴らに・・・奴らに一体何を・・・!
ウォルター 「奴らに何を?」、捕らえられ、吸血鬼にさせられ、洗脳させられて、哀れにも元の主と無理矢理に戦わせられているのですよ。・・・とでも私が答えれば、満足かねセラス。
私は何者にも命を受けずに ここに立っている。私は私として立っている。ウォルター・C(クム)・ドルネーズとして ここに立っている。
私は私の殺意を以って、この夜明けに貴方方を切断しようと思う。
インテグラ ウォルター・・・何故だ!ウォルター!
ウォルター 私を!名で呼ぶな!
誰も私の邪魔はできない、誰も私の反逆の邪魔はさせん。
インテグラ そうかウォルター、そうなのだな。お前はお前の意志をもって、反逆の徒と成り果てて私の前に立ったのだな。
お前はもう、私の執事ではなくなったのだな。私はもう お前の主ではなくなったのだな。ウォルター・C(クム)・ドルネーズ。
10 アーカード くくくくく、くはははははは。よう、「死神」。
老いるのは英国人の楽しみだと言ったじゃないか、意地も張れぬ繁栄など断ると言ったじゃないか。
老いた姿のお前は、その様(ザマ)の何兆倍も 何京倍も美しかったというのに、なんて醜い様(ザマ)だ。
身も心も死神になったか。
ウォルター そうだ!所詮この世は修羅の巷(ちまた)の一夜の夢だ。一睡!一酔!私は死神の一夜の夢だ。俺は この夜明けの刹那に遂に死神となった!
ナレーション アーカードは地面に跪きウォルターが踏みつけたアンデルセンの亡骸に触れている。
ウォルター 立てい 立って戦え!ヘルシング!アーカード!
アーカード お前も俺も今や狗(いぬ)だ、走狗(そうく)だ、狗は自らは吼えぬ。
命令(オーダー)を!命令(オーダー)を よこせ!我が主!私は殺せる、微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く鏖殺できる、この私は化物だからだ。ではお前はお嬢さん(インテグラ)、銃は私が構えよう、照準も私が定めよう、弾を弾装に入れ遊底を引き安全装置も私が外そう、だが、殺すのは お前の殺意だ。
さあ どうする命令を!王立国教騎士団(ヘルシング)局長!インテグラ ファルブルケ ウィンゲーツヘルシング!!
ウォルター 言え!言うんだ!言いなさい!言うのです!お嬢様!!
インテグラ ・・・!・・・サーチアンドデストロイ!サーチアンドデストロイだ!従僕!私は命令を下したぞ!何も変わらない!我々に敵対する あらゆる勢力は叩いて潰せ!全ての障害はただ進み押し潰し粉砕しろ!それが たとえ誰であっても!それがたとえ何であっても!・・・それがたとえ・・・誰であっても!
ウォルター 素晴らしい、貴方はやはり私が仕えるに価した主君だった。
アーカード 了解(ヤー)、我が主(マイマスター)。
インテグラ 「何があった どうしてだ」などともはや聞かぬ!今や お前は私の敵になった。ヘルシングの敵になった!英国の敵になった!なってしまった!倒さねばならない!滅ぼさなければならない!
20 ナレーション 超巨大空中船のスピーカーが響く。
少佐 良く言った、インテグラル ファルブルケ ヘルシング。戦争処女(アマチュア)などと言って悪かった、二度と言うまい。
貴方は今 ようやく私の敵になった。倒すべき強大な勢力の、私の大事な素敵な宿敵となった。
ナレーション 超巨大空中船はロンドンに着地し、扉を開いた。
少佐 運命がカードをまぜた、来たまえ、勝負(コール)だ。
アーカード 行け、行くがいい、行って殺してこい、征(い)って終わらせてこい。
インテグラ ああ、征(い)ってくる。
セラス マ・・・マスターッ!
アーカード 征(い)けセラス、主君には供回りが必要だ。あの男の長い夢を終わらせて来い、55年間のな。
もはや朝が来た。私はこの男との長い夢を終わらせる。
セラス ウォルター・・・ッ、さんッ。あの・・・ッ、こんな、こんな事言うの変かもしれないけど・・・あの・・・その・・・ッ、今まで ありがとうございました、ご達者で!
ウォルター 貴方も。
30 インテグラ 急げ!
セラス はい!
インテグラ ウォルター、さらばだ。さらばだ、死ね!然らば!
全ては鬼札(ジョーカー)、全て終わらそう、勝負(コール)だ。
ナレーション インテグラとセラスは扉を抜け、超巨大空中船内へと進んでいく。
アーカード いい女達だろう。もう私の物だ、私だけの、私だけの愛しい主と、私だけの恋しい下僕(しもべ)だ。もう おまえのじゃあない!怒ったか死神!怒れ!怒れ!お前との馬鹿踊りも今日で仕舞いだ、噛み締めろ!
ナレーション 死神と化物の闘争が始まる。共に正面から駆け寄る、アーカードの手の平がウォルターの眼前まで来た時、動きが止まった。ウォルターのワイヤーがアーカードの腕を捉え、千切り落とした。ワイヤーはさらに足に巻きつき引き釣り地面に叩き付けた。
ウォルター 貴様は言ったな かつて、不死身の化物など存在しないと。その言葉の通りだ、今や存在しない。くたばるまで殺してやる。
ナレーション アーカードの放つ銃弾をウォルターの前に幾重にも張り巡らしたワイヤーの盾が封じる。
ウォルター 効かん!
ナレーション 続けざまに構えられた銃が爆発しアーカードの右手を奪う。
40 ウォルター その銃を作ったのは誰だ、忘れたのか。それはアンデルセンを倒すための物だろう?私はアンデルセンじゃあないよ。
ナレーション アーカードの黒き闇から巨大な魔犬が現れウォルターに迫る。
ウォルター 黒犬獣(ブラックドック)バスカヴィル。
ナレーション 迫り来るバスカヴィルをウォルターのワイヤーが両断する。
ウォルター 吠えるな、駄犬。
さあ次は何だ、何をしてくれるんだ?吸血鬼アーカード!ただの吸血鬼め。
ウォルター
(心の声)
もたん!体が・・・!もうか!?
否!納得したはずだ。納得して反逆したはずだ、納得して このざまになったはずだ!
だめだ!まだだめだ!まだ死ねん!まだだ!アーカードを倒してない!
ウォルター 追い詰めたぞアーカード!終わりだアーカード!
アーカード 応、馬鹿踊りも終(しま)いにするかい。
ナレーション ウォルターの渾身の力を込めたワイヤーがアーカードの両手足を切断する。
ウォルター ハア、ハア、ハア、ハア、早く、こいつの、心臓を!心臓を、心臓を!
50 ナレーション ウォルターは杭を掲げアーカードの胸に突き立てた。
ウォルター ・・・!違う!こいつは・・・!違うッ!
ナレーション アーカードの姿が闇に消える。
ウォルター な・・・に・・・!?
アーカード ウォルター、お前の裏切りなど何の事はない、結局の所、突きつめて行けば こんな物は、ガキの喧嘩なんだよ。
闘争の本質だ、「それを打ち倒さねば己になれない」そのために何もかもを引っくり返して叩き売りだ。
そうだ、500年前の俺も、今の お前も、アンデルセンも、あの少佐も。私と闘いたかったんだろう?でなけりゃ一歩も前に歩めなくなったんだろう?進む術も知らんのだろう?無用者になるのが怖いか、老いが怖いか、忘れ去られるのが怖いか・・・お前はガキだ。
腹が減った。
ナレーション アーカードの闇がロンドン中の命を吸い込み、喰らっていく。
ウォルター まだだ!まだ勝負はついてない!ついてないぞ!
少佐!やめろ!やめさせろ少佐!
少佐 いやもうついたよ、もう遅い。もう全てが遅いのだ、お前ではもう それには勝てない、機会は永久に近く失ってしまった。
好機は呉れてやった、千載一遇の、アーカードを物理的に打倒するたった2つの好機、1898年以来の ただの2つの好機。
1000人の吸血鬼化武装親衛隊、3000人の第9次空中機動十字軍、そしてイスカリオテ、そしてアンデルセン、そしてお前の これまでの半生。それらの全てを犠牲にして作り上げた刹那、唯一アーカードを殺すことのできる刹那、それでもなお お前の糸は届かなかったな そこまで。
今やアーカードの命の数は いったいいくつだ、100万か?200万か?お前ではもう勝てない、お前の人生は今 台無しになった。
ドク 全ては貴方の望む通りになりましたな、少佐。
少佐 そうだ、全て私の思うが ままだ。彼はまた城壁を築きはじめた、私の勝ちだ。
私は彼を はなから人だなどと思っていない、いや、むしろ吸血鬼とすら思っていない。彼は城であり彼は運動する領地だ。暴君の意志が率いる死の河という領民達だ。
倒すには どうすればいい、屠(ほふ)るには何をどうすればいい、私は寝ても覚めても そればかり考える。
それが私の たった一つの戦争のやり方だからだ。戦争、戦争だ、彼と私との。
全身全霊で戦わねばならん、私には何がある?彼には何がある?体を変化(へんげ)させ、使い魔を使役させ、力をふるい、心を操り、体を再生させ、他者の血をすすり、己の命の糧(かて)とする、それが吸血鬼(かれ)だ。
私には何もない、なぜなら私は人間だからだ。
きっと吸血鬼になれば素晴らしいのだろう、無限永久に生きて、無限永久戦い続けられれば、それはきっと歓喜なのだろう。
だが私は それはできない、それだけは けっして。
全ては準備だ、この瞬間のために、最後の大隊も、第9次十字軍も、アンデルセンも、ウォルターも、何もかもが私達の50年が この時のためにあったのだ。
アーカードがゼロ号開放し、全ての命を放出し、彼が「彼の城に ただ一人」となった時に、アンデルセンが倒すだろうか、ウォルターが倒すだろうか?
私は否だと思う。彼は彼一人でも恐ろしい吸血鬼だ。100年前に たった一人でロンドンに攻め込んだ男だ。500年前に たった一人でオスマン帝国と戦った男だ。そして再び彼が血を吸い始めれば それでもう全て台無しだ。
何というズルだ、生も死も全てペテン、今がまさに その最中。
そんな狂王を殺すにはどうしたらいい、戦場(いくさば)で十重二十重(とえはたえ)の陣を踏み破り、無限に近い敵陣を滅ぼして首級(しるし)を上げるか?「否」、彼は再び血を吸うだろう、大喰らいの王様だ。
その彼の最大の武器が弱点でもある。古今(こきん) 暴君は己の倣岸(ごうがん)さ故に毒酒をあおる。
60 ナレーション 超巨大空中船内をインテグラとセラスが襲い来る武装親衛隊を打ち倒しながら進んでいる。
インテグラ 皆笑って死んでいく、そうだ奴らは死ぬために やって来たのだからな。
セラス そんなに死にたきゃ・・・ッ、そんなに死にたきゃッ!勝手に首くくれ!50年前に首括(くく)れ!!
ナレーション 船内放送が聞こえる。
少佐 そういう訳には いかんのだよ お嬢さんがた。ただ死ぬのは真っ平御免なんだ。
それ程までに度し難いのだ我々は、世界中の全ての人間が我々を必要となどしていない、世界中の全ての人間が我々を忘れ去ろうとしている。
それでも我々は、我々のために必要なのだ。ただただ死ぬのなんか いやだ、それだけじゃ いやだ!私達が死ぬには もっと何かが必要なのだ、もっと!もっと!と、そうやって ここまで来た、来てしまった!もっと何かを!まだあるはずだ!まだどこかに戦える場所が!まだどこかに戦える敵が!
世界は広く!脅威と驚異に満ち!闘争も鉄火も超えて溢(あふ)れ!きっとこの世界には我々を養うに足りるだけの戦場(いくさば)が確実に存在するに違いないと!我々が死ぬには何かがもっと何かが必要なのだ、でなければ我々は無限に長く歩き続けなければならない!死ぬためだけに!だから君達が愛(いと)おしい!君達はそれに価する!君達は素晴らしい!ヘルシング!君達は我々が死ぬ甲斐のある存在であり、君達は私達が殺す甲斐のある存在なのだから。
ナレーション 2人の前に一人の男が立った。セラスは感じ取っていた、この無表情なる男の只ならぬ力を。
セラス インテグラ様、先に向かって下さい!
インテグラ !セラス・・・!
セラス 大丈夫です!早くあの少佐の元へ!
あの男に・・・あんな男のもうこれ以上もう、一言だって しゃべらせちゃいけないんです!!
インテグラ ・・・!・・・死ぬなよ、許さんぞセラス、絶対に許さんぞ。
70 ナレーション 圧倒的であった。格納庫でのセラスと男との闘いは、まさに圧倒的であった。セラスの繰り出す攻撃全てが男の歴戦の経験と技にことごとく いなされ、かわされていく。そして炎のような男の猛攻がセラスを地べたに這わせていた。男は無表情のままセラスを打ちのめしていく。
セラス だめだ・・・強すぎる!だめだ・・・だめ・・・
ナレーション 意識を失いかけた時、セラスの中で声が聞こえた。
ベルナドット おいおいマジかよ、らしくねえや。
立ちな、俺の知ってる女は、もっと往生際の悪い女だぜ。しょうがねえアマっ娘だ、呆(ぼ)うけやがって、このバカめ。さあて目も覚めたところで、いくぜ譲ちゃん。やっちまえ!一緒にアイツやっつけちまおうぜ。
ナレーション セラスの蹴りを男は悠々とかわす。
ベルナドット 点じゃねえ!「面」だ!「面」で殺れ!
ナレーション セラスの放つ闇が無数の刃となり男を囲み刺し貫いた。
セラス 殺(と)った!
ベルナドット 殺(と)ってねえ!
ナレーション 貫かれたと思われた男は闇の刃の先端に立っていた。
ベルナドット ありゃあ・・・確かに本物の化物(バケモン)だわ。あれじゃあ まるっきり本物の狼男じゃねえかい。
80 セラス 人狼(ヴェアウルフ)・・・!
ナレーション 戦闘の衝撃で舞い振る金銀財宝、その中でセラスは意外なものを見つける。
セラス
(心の声)
!・・・金歯・・・歯の詰め物・・・?
セラス じゃ・・・じゃあ、これ、全部・・・!
ベルナドット そうだろうさ、連中が50年前 欧州を引っくり返して奪ってきたモンだ。ここに散らばる金塊も札束も時計も皆々 その歯の詰め物だって、どっかの収容所の あわれな誰かの口の中から引き抜いたもんだろうさ。
ようするに そういう連中なのさ、軍隊ですら ありゃしねぇよ、いいとこ殺し屋の徒党と どう違う!
俺は あんな連中クソ程も認めねぇよ、無敵の軍隊?鋼鉄の騎士?ハッ、あんま笑かすなよ!
ナレーション 男が何かをセラス目掛け投げ渡す。
セラス !銀歯・・・ッ、こ・・・ッ、これって・・・ッ!
ベルナドット お優しい犬っころだな、それで やれって事かい。
セラス そ・・・それじゃ、わざとここに!?
ベルナドット ・・・そうかい!死にたがりの戦争犬(ワードッグ)!引導わたして やろうじゃねぇか。
90 セラス 戦争犬(ワードッグ)だったらベルナドットさんも人のこと言えないんじゃ・・・。あと、あたしん中でタバコ吸わないで下さい・・・
ベルナドット ははは!ちげぇねぇ!ははははは!
来るぜ、逃げるな!受けとめろ!
セラス はい!
ナレーション 男の蹴りを受け止めるセラス、受け止めた右腕がひしゃげて折れる。
ベルナドット 行け!征(い)け!やってやれ!攻撃する時は奴も生身だ!
セラス まあだぁまだぁ!でえりゃああっ!
ナレーション セラスはロケット砲を掴みあげ男めがけて投げつけた。男はロケット砲を蹴り返し、2人の間で爆発する。爆煙を抜け飛び込むセラスを男の眼光が捕らえていた。
セラス !読まれてた!
ベルナドット かまわねえよ!
セラス うん!行こう!
100 ベルナドット ああ!いっちまえ!やっちまえ!
ナレーション 闇で構築したセラスの左腕と男の右腕が激突し、両方の腕が砕け散る。続けざまに男は左手を繰り出す、セラスは躊躇する事無く、折れた右腕を放った。再び両方の手が砕け散る。両手を失った男がセラスの顔目掛け蹴り上げた足を捉えたのはセラスの牙だった。
セラス 今度こそ(こんろほそ)、取った(ほっは)!
ベルナドット 狼男の旦那、50年前の誰かさんからの おかえしだ、取っておきな。
ナレーション セラスの闇から現れたベルナドットが男の胸に銀歯を刺しこむ。男は血を噴出し床に倒れ伏した。
ベルナドット 他人(ひと)の女に手ェ出すからさ!首輪も飛んだぜ、あばよ戦犬(ウオードッグ)
ナレーション 男の表情が初めて変わった瞬間、炎に包まれ男は灰となった。
セラス
(心の声)
まるで、まるで楽しい夢を見た子供の様。そうだ、きっと今日、今夜のこの夜は、彼らの万願成就の一夜の夢なんだ。
セラス ベルナドットさん。
ベルナドット ああ、そうだな。終わらせに行けよ、醒めない夢なんて無いのさ、征(い)け!
110 ナレーション 少佐の部屋に辿り着いたインテグラは扉を開いた。
インテグラ 少佐!
少佐 やあ、ようやく直(じか)に御目見得(おめみえ)出来て嬉しいね。
ナレーション インテグラは腰のホルスターから銃を引き抜くと少佐目掛けて連射した。だが少佐の眼前にある防弾ガラスが銃弾を全て弾き飛ばした。
少佐 残念だが その銃では無理だよ。なに、指揮者の たしなみだ。
この出しものに遅れるのではないかと思ったが、間に合って良かった。せっかく今宵限りのショウなんだ、どうせなら綺麗な御婦人と最高の席で観なければ。
インテグラ ふざけるな!
少佐 楽しみたまえよ君。これは100年に一夜の劇だ。1898年以来の おはなしだ。
吸血鬼アーカードが・・・消えて無くなってしまうのだから。
インテグラ な・・・に!?
少佐 お前の負けだアーカード・・・勝った♪
消えろ消えろ短い蝋燭、人生は歩き回る影に過ぎぬ。
インテグラ 何だ!何が起きている!何をした!!
120 少佐 何もかも。
彼はシュレディンガー准将の命を吸った。それはシュレディンガーの命の性質と同化した事に他ならぬ。
彼は意思を持つ自己観測する「シュレディンガーの猫」存在自体が あやふやな確立の世界を跳ね回る一匹のチェシャ猫だ。彼が自分を認識する限り彼は どこにでもいて どこにもいない。しかし今や彼は数百万の意識と命の中に融けてしまった。もはや彼は自分を認識できない。ならばどうなる。彼はもはや どこにもいない。生きてもいないし 死んでもいない。もはや彼(アーカード)は、ただの、虚数の かたまりだ。
インテグラ アーカード!目を閉ざすな!目を開けろ!アーカード!命令(オーダー)だ!アーカード!消えるな!!
アーカード いや さよならだ 「我が主」(インテグラ)。
インテグラ アーカード!!
少佐 ・・・俺の何もかも くれてやったが、奴の何もかも消えて無くしてやった。
この日のために生きて来た。この一瞬のためだけに生きて来た。負け続けの私の戦争(いくさ)で、初めて勝った。
インテグラ 貴様・・・!貴様は!!
少佐 そうか、いいものだな。これが・・・勝利(かち)か。
ナレーション 司令室の壁を砕き、セラスが現れた。
少佐 やはり お前たちだ、私を殺すのは。
やあ、はじめまして お嬢さん。そんな事はわかり切った事だ。そうだ、君達なのだ 私を倒すのはアーカードじゃない、私が倒すのがアーカードなのだ。私の宿敵はアーカードであり、君達の宿敵が私なのだから。
インテグラ セラス、撃て。
130 少佐 さあ来い!敵はここだ!ここに居る!君はそこに居て、私はここだ、ここにいる!
インテグラ セラス、撃て。撃て!撃て!!サーチアンドデストロイ!サーチアンドデストロイだ!!
セラス うああああ!
ナレーション セラスが連射するライフル砲が、防弾ガラスにヒビを走らせていく。
少佐 ドクめ頑丈に作りすぎだ。
ナレーション セラスの左手から放たれる黒き影が地下に埋もれていた戦車砲を引き抜き、砲身を少佐に向けた。
少佐 88mm(アハトアハト)・・・!そいつは素敵だ、大好きだ。
ナレーション 轟音と共に放たれた戦車砲は防弾ガラスを突き抜け少佐の半身を吹き飛ばした。
インテグラ 終わりだ、少佐!
少佐 ・・・その・・・よう・・・だな。なあに・・・まだまだ・・・
140 インテグラ それが・・・!その様(ザマ)が お前か少佐!
少佐 そうだ、これが私だ。
セラス 機械・・・!
少佐 失礼な事を・・・言う・・・もんじゃない、お嬢さん。私はしっかりと人間だよ。
インテグラ 化物(モンスター)め、お前は ばけものだ。
少佐 違うね 私は人間だ。人間が人間たらしめている物はただ一つ、己の意志だ。
血液を魂の通貨として 他者を取り込み続けなければ生きていけない様なアーカードの様な哀れな化物と、あんな か弱いものと一緒にするな。
私は私の意志がある限り、たとえガラス瓶の培養液の中に浮かぶ脳髄が私の全てだとしても、きっと巨大な電算機の記憶回路が私の全てだったとしても、私は人間だ。人間は魂の 心の 意志の生き物だ。
たとえ彼が幼い少女の姿で微笑みかけようと、歴戦の戦人(いくさびと)の姿で感傷たっぷりに ひざまずこうと 彼は化物だ。
だからこそ私は心底 彼を憎む、吸血鬼アーカードを認めない!
彼は人間の様な化物で、私は化物の様な人間なのだろう。
私は私だ。「こっちは あっちと違う」、「わたしは あなたと違う」。この世の闘争(せんそう)の全てはそれが全てだ。人間がこの世に生まれてからな。
君も私とは違うと思っている。戦いの布告は とうの昔に済んでいる。さあ、戦争をしよう。
ナレーション インテグラが上着を脱ぎ捨て腰のホルスターを晒すと同じくして。少佐がほおの肉皮をわずかにゆがませ上げながら拳銃をゆっくりと抜いた。セラスはただその光景を見つめている。たった2人の戦争が始まったのだ。少佐の放つ銃弾の中をインテグラが歩みを進める。2人の目線が重なった刹那、両者の銃弾が放たれた。少佐の銃弾はインテグラの左眼を奪い、インテグラの銃弾は少佐の眉間を撃ち抜いていた。
少佐 ふ・・・はは、初めて当たったぞ!ああ、これは良い、良い戦争だった。戦争・・・良い・・・戦争だった。
インテグラ 死ね、お前は死なねばならない。良い戦争だったか少佐。
これは戦争ですらない、60年前から瀕死のお前が今 息絶えただけだ。お前は死なねばならない、これは絶対応報だ。
お前がいくら人間を自称しようと、お前はもはやカケラも人間ではない、お前はただの正真の化物だ。
化物を倒すのはいつだって人間だ、化物は人間に倒される。人間だけが「倒す」事を目的とするからだ。戦いの喜びのためなどではない。己の成すべき義務だからだ。
お前は人間ではない、あいつは帰ってくる!
ナレーション 業火に包まれた超巨大空中船は、今まさに陥落の時を迎えようとしていた。その中の一室である研究室に、呆然と立ち尽くす男の姿があった。
150 ドク 終わりか!?いや!違う、違うとも。技術は理学を糧に突き進む、研究は飛躍する。否!否!研究は飛躍した!
どうすればいい、どうすればいい?何が!何が!まだだ、まだ届かない、何がいけない?何が足りない?
そうだ!いつの日か!いつの日か!世界の全てに一人残らず配給するのだ。奇跡の様な科学を!科学のような奇跡を!
ウォルター どこに行くつもりだい大博士(グランドプロフェッツォル)。
ドク !!・・・ウ・・・ウォルター・・・!
ウォルター 駄目駄目ドク、往生際は良くしなければ。ナチの残党の残党なんて笑い話にもなりゃしない。
ドク この・・・ッ、出来損ないめが!
ウォルター あんたも立派な出来損ないさドク、あんたも、あんたの作ったモノも全て、この俺も。
茶番劇は終わった、演者も消えなければ、そうだろう大博士(グランドプロフェッツォル)。
ドク 茶番・・・茶番だと!?どの口がほざく・・・欠陥品の どの口が!?
ウォルター 一夜一幕の茶番劇さ、この戦(いく)さも この世の中も。
僕は・・・僕はその中で できるだけ いい役が演じたかっただけさ。
ひっどい末路さ、アーカードの言う通りだ、みっともないよねぇ。
ドク そんな欠陥品の貴様が・・・ッ、失敗作の貴様が・・・ッ、私達を笑うと言うのか。
貴様なぞに!私の研究を茶番呼ばわりされてたまるか!少佐殿の大隊を笑われてたまるか!お前なんかに!お前みたいな ものに!
理論は飛躍する!研究は飛躍する!理学は実践を食(は)んで油断無く進む!
ナレーション ドクは「MINA」と印字された外骨格を指差し叫んだ。
ドク いつの日か これに追いつく!いつかアーカードを越えて見せる!!
160 ウォルター 馬鹿言っちゃいけない、お前も僕も皆死ぬ、欠陥品は全部死ぬ。
ドク 黙ァれぇえ!
ナレーション ウォルターの体内に埋め込まれた自動発火装置を作動させようとリモコンに手をかけたドクの手足をウォルターのワイヤーが切り裂いた。
ウォルター ミナ・ハーカー、そうだろうさ、これが お前たちの教材。アーカード「ドラキュラ」が血を吸われた唯一の存在、「全ての始まり」
ヘルシングに「ドラキュラ」が倒され人に戻ったという。だがアーカードは死んでいない!彼女の中にはアーカードがいる。彼女自身が どうなろうと、彼女の奥深くには存在する。聖餅(せいへい)でも聖水でも十字架でも どうにもできない吸血鬼の血が。だから お前たちは「そこから始めた」。
「アーカード模倣」そのために お前たちは彼女をあばき、残骸のような彼女を残骸に しつくした。
結局のところ、お前たちの やった事は、コピー商品さ、これが茶番でなくて一体何だ。
かわいそうな彼女(ミナ)。
全部消えろ。退場するんだ、お前たちも この俺も。
ナレーション いつしか業火は研究室をも焼き、崩れ落ちた研究機材がドクを押し潰した。
ウォルターはタバコに火をつけ、地べたに座り込む。
ウォルター ああ・・・畜生。勝ちたかったなぁ、あいつに。
御然(おさ)らばです、お嬢様。
ナレーション ウォルターはゆっくりと目を閉じた。業火が研究室を包んでいく。
インテグラ ウォルターー!!・・・ウォルターが逝った・・・今。
セラス ・・・はい。
インテグラ ・・・帰ろう・・・帰ろうセラス、我が家へ・・・飛べ!
170 ナレーション 爆発の続く船内をインテグラと共にセラスが飛び抜け、夜空を舞った。超巨大空中船は大爆発を起こし業火の中に消えた。業火に包まれるロンドンを、朝焼けが照らしていた。

後に、この夜はこう語られる、英米同時バイオテロ事件、別名、「飛行船事件」と。被害者は、米国 全閣僚含む6万4300人。英国 371万8917名。

30年後、ロンドン ヘルシング本部。満月の夜、インテグラの寝室に、黒き影が現れた。黒き影はゆっくりと寝息を立てるインテグラの首筋に己が歯を添えた。次の瞬間、インテグラの放つ銃弾が影を床に這わせた。
セラス 何事ですかマスターッ!
ナレーション セラスが両の手に重火器を掲げながら扉を蹴破り入って来る。
アーカード ク・・・クハッ、ハハッ、手荒い歓迎だ、それに相変わらず やかましい。
セラス マスター!!
インテグラ 遅い帰陣だなアーカード、何をしていた。
アーカード 殺し続けていた、私の中で、私の命を。342万4867、一匹意外は全員殺して殺し尽くしてきた。もう私はここにいる、もう私は どこにもいないし どこにでもいれる だから ここにいる。
インテグラ 遅い、遅すぎる、遅いよアーカード。
アーカード すまない。
180 インテグラ 血を吸う気だったのか、私を。
アーカード ああ そうだ、30年間何も食ってない、腹がへった。
インテグラ 私はもう おばあちゃんだぞ 私は。
アーカード それが いい。
ナレーション インテグラは己が薬指に歯を立て、僅かに滴る血をアーカードに与えた。
インテグラ おかえり伯爵。
アーカード ただいま伯爵。