HELLSING episode 9
01 ナレーション 地獄の業火に燃えるロンドンを超巨大空中船から見降ろす少佐の姿があった。
少佐 これだ!これが見たかった!ああ、すごくいい。
博士 少佐、ゾーリンが死にました、虫の様に。
少佐 ははは、やっぱりな、馬鹿な小娘だ。滅びが始まったのだ、心が踊るな。
博士 酷いお人だ貴方は、誰も彼も連れ回して、一人残らず地獄に向かって進撃させるおつもりだ。
少佐 戦争とはそれだ、地獄はここだ。私は無限に奪い、無限に奪われるのだ。無限に滅ぼし、無限に滅ぼされるのだ。その為に私は野心の昼と諦観(ていかん)の夜を超え、今ここに立っている。
見ろ、滅びが来るぞ、勝利と共に。
ナレーション キリストは勝ち、キリストは支配し、キリストは、キリストは君臨する。ヨハネ・パウロ2世、最もいと高き司教たる天下世界の教皇に無限の平和と生命と救いあれ。および彼に委ねられた全ての聖職者に無限の平和と生命と救いあれ。
イスカリオテ大司教マクスウェル率いる戦闘ヘリ集団のライトが地上を照らす。絶望の淵に立つロンドン市民には、その光が希望の光に見えた。人々は叫ぶ「天使だ!」と。
マクスウェル その通り、我らは死の天使の代行人である!これより宗教裁判の判決を行う!被告「英国」!被告「化け物」!判決は、死刑!死刑だ!死刑死刑死刑死刑死刑死刑!お前達は哀れだ、だが許せぬ!実を結ばぬ烈花の様に死ね!そこを見張れ!あそこを見張れ!我らの敵を根絶やしにせよ!目標!「前方」!死刑執行!
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!いいぞ、皆殺しだ!これが我々の力だ!見てみよ!これがヴァチカンの力だ!虫けらどもめ!はははは!見ろ、あの哀れな連中を!死んだプロテスタントだけが良いプロテスタントだ!
少佐 なんだ、あの小僧やれば出来る子だったのじゃあないか。大隊総員傾注!対紫外線装備!集結!
10 博士 少佐、ここは危険です、中にお入り下さい。
少佐 博士、「あれ」はもう使えるのか?
博士 はい。ですが、非常に不安定です。危険な施術でしたが、おっしゃる通りに致しました。
少佐 それは重畳(ちょうじょう)。いいだろう?「あれ」。
博士 はい、確かに素晴らしい素体です。ですが今回の施術、何分時間がありませんでしたので、少々手荒なものになりました。それよりも中に、中にお入りを。この艦の特殊軽金装甲とてこの攻撃では長くもちません、少佐!少・・・っ!音楽を奏でている、戦場音楽を・・・誰も・・・邪魔出来ない。指揮をしておられる、戦争音楽・・・!我々は楽器だ!音色を上げて咆えて這いずる一個の楽器だ。
ナレーション 敵戦闘ヘリが少佐に照準を定めた刹那、戦闘ヘリは幾重にも寸断され鉄クズと化した。
少佐 いい仕事だ、執事。
ナレーション そこにはウォルターが!否、服装、いでたちはウォルターそのものであるその男、歳の頃は明らかに20代であった。
少佐 半世紀前にもう決めていた、死神には髑髏の印がふさわしい。
ナレーション 戦闘ヘリからの機銃が人々に死の雨を降らせている。その惨劇を歯噛みしながら睨み付けているインテグラの姿があった。
20 インテグラ マクスウェル・・・ッ!裏切ったなマクスウェル!
アンデルセン 裏切り?馬鹿をいえ。戦で騙撃(きょうげき)裏切りは当たり前だ。それどころか賞賛されてしかるべきだ。特に異教徒相手ならな。だが!だがな!だがこいつは違う、気に入らぬ。マクスウェル、お前は酔っている、酔いしれている。権勢と権威と権力にだ。俺達(イスカリオテ)はただの暴力装置のはずだ、俺はただの人斬り包丁だ、神につかえるただの力だ。マクスウェル、お前は今、神につかえる事をやめた、神の力につかえている!ええ?そうだろう?マクスウェル大司教様(アルキエビスコプス)よ?
ハインケル 神父アンデルセン、彼女の送迎はもう やめです。マクスウェル司教、いや、大司教猊下よりの御命令です。「即刻ヘルシング局長インテグラを拘束連行すべし!」
アンデルセン 気に入らねえな。
ハインケル 気に入る気に入らないの問題ではありません!アンデルセン!
アンデルセン 気に入らねえよ!!
ナレーション 13課の精鋭達が一斉にインテグラに銃口を向けた。近づく黒き影に気付いたのはアンデルセンだけであった。黒き影は13課の精鋭を蹴散らしインテグラの前に立った。
ハインケル セラス!セラスヴィクトリア!
セラス お怪我はありませんか!インテグラ様。
インテグラ 健在だ。本部施設は?
30 セラス 中隊規模の敵の攻撃を受けました。敵はやっつけました。本部は・・・全滅です。ベルナドットさんも・・・
インテグラ ・・・そうか、そうなのだな、セラス、お前ベルナドットを吸ったな。吸血鬼になったのだな。
セラス ・・・はっ、はい!
ハインケル く・・・くそぉ・・・ッ!
アンデルセン やめておけハインケル。その娘はもはや お前達が束になっても相手にならん。吸血鬼セラス・ヴィクトリア!恐ろしいものになって やってきたものだな。
セラス ええそうです神父アレクサンド・アンデルセン。私はもう何も恐ろしくありません。
アンデルセン まるで奈落の底の様な眼をしやがって、人の形をしているくせになんて様だ。
セラス あの人が帰ってきます。
アンデルセン 黒渦が来るぞ、黒渦が来るぞ!こいつは素敵だ、全部台無しだ。
マクスウェル 戦列を組め!アンデルセンは何をしている!武装ヘリは何をしているのか!先遣武装神父隊はいずこにありや!?飛行船の攻撃を続けろ!総攻撃しろ!あんなデカブツにいつまで手間取る、総攻撃だ!
40 側近 兵員の降下と編成中です!総攻撃はいまだ出来ません!
マクスウェル やかましい!!信仰心があるならさっさとやれ!アンデルセン!アンデルセンはどこだ!インテグラの捕獲はまだか!
側近 マクスウェル大司教猊下!ドーバー上空の空母監視機より連絡です!
マクスウェル な・・・見っ、見失っただとう!?馬鹿を言え、あんな巨大なしろものが、幻の様に消え去ったとでもいうのか!?
側近 海域全域が突然 霧におおわれたとの事で、霧は朝霧となってドーバー全域をおおい尽くしています。
マクスウェル ふざけるな!探し出せ!あれはただの空母の残骸ではないんだぞ!アーカードだ!アーカードが乗っているんだ!
!、何事だ!?
側近 テムズを何かがさかのぼってきます!何かが!・・・幽霊船が・・・!
ナレーション かつて、ある吸血鬼が英国にやってきた。自らが渇望する一人の女を手に入れる為に。その吸血鬼が乗り込んだ幌船は、霧の中から波から波へと飛び移り、ありえない速度で疾走した。乗組員を皆殺しにしながら。そして遂に死人と棺を満載した幽霊船はロンドンへ着港した。船の名はデメテル号、ロシア語でデミトリ号である。
キャスター作「マモン平原会議のウスター伯ヴィランデル図」。槍ぶすまの絵の前で集まった彼らは、今こうして槍ぶすまの前で再会した。
少佐 かくして役者は全員演壇へと登り、暁の惨劇は幕を上げる。
ナレーション ロンドンの地を、白き騎士団と黒の戦闘団が埋め尽くしていた。その中央に空から降り立つ男が一人・・・アーカードである。
ドイツ第三帝国ナチス党 私兵集団武装親衛隊 吸血鬼化 装甲擲(てき)弾兵 戦闘団 「最後の大隊」残存総勢力572名。
ローマ・カトリック ヴァチカン教皇庁 第9次 空中機動 十字軍 残存総勢力2875名。
50 アーカード 主(あるじ)よ!我が主よ!我が主人インテグラヘルシングよ!命令を!
インテグラ 我が下僕 吸血鬼アーカードよ!命令する!白衣の軍には白銀の銃をもって朱(しゅ)に染めよ。黒衣の軍には 黒がね の銃をもって朱(あけ)に染めよ。一木一草ことごとく我らの敵を赤色に染め上げよ。サーチ・アンド・デストロイ!サーチ・アンド・デストロイ!総滅せよ、彼らをこの島から生かして帰すな。
アーカード 了解、認識した。我が主。
ナレーション 大英帝国ヘルシング 残存総勢力・・・3名。
インテグラ 拘束制御術式零号 開放!帰還を果たせ!幾千幾万となって帰還を果たせ、歌え!
アーカード 私はヘルメスの鳥、私は自らの羽を喰らい
ナレーション 騎士団も、戦闘団も、皆唯一人の男に恐怖し、唯一人の男だけに己が矛先を向け突撃していく。
アンデルセン ここにいる全てが感じたのだ、「恐ろしい事になる」と。この化け物を倒してしまわないと、恐ろしい事になると!
アーカード 飼い慣らされる。
少佐 来るぞ。河が来る、死の河が!死人が舞い地獄が歌う。
60 ナレーション 無数のトランプが戦闘団を切り裂く。たった一発の魔弾が十字軍を貫く。アーカードの放つ闇からトバルカインが、リップヴァーンが、亡者となりて姿を現す。闇はロンドンを染め、押し寄せる波のごとく幾多の亡者を吐き出していく。
マクスウェル 馬鹿な、馬鹿なっ、馬っ、馬鹿なっ、そんな馬鹿な事があるか!
インテグラ あれが吸血鬼、アーカードそのものだ。血とは魂の通貨、命の貨幣。命の取り引きの媒介物に過ぎない。血を吸う事は命の全存在を自らのものとする事だ。・・・「今のおまえ」ならば理解できるだろう、セラス・ヴィクトリア。
セラス はい!
アンデルセン 戦鍋旗(カザン)・・・!イェニ・チェリ軍団!貴様はそんなものまで、そんなものまで喰ったのか!道理で死なぬはずだ、道理で殺せぬはずだ!奴は一体どれ程の命を持っている!?一体どれ程の人間の命を吸ったのだ!?
マクスウェル ワラキア・・・公国軍・・・!お・・・おまえは、おまえは、自分の兵まで・・・っ、自分の家臣まで・・・っ、自分の領民まで・・・っ!何て奴だ・・・っ、おまえは何だ!化け物!ドラクル・・・!ドラキュラ・・・!!何だ!何が・・・何が起きている!?
少佐 死だ!死が起きている!
ナレーション 天も無く、地も無く、人々は突っ走り、獣は吠えたてる、まるで彼らの宇宙が一切合切咆哮を始めた様だ。死ねや、死ねや、人間は歩き回る陽炎に過ぎない。闘え、死ね、あとは全てくだらないものだ。死んでしまえばよい、消えてしまえばよい。きっと彼らの全てが仇人で世界がその絶対応報に頭(こうべ)を上げたのだ。
側近 戦列崩壊!戦列崩壊!司教猊下!退却を!司教猊下!これはもう戦いとは呼べません!!
マクスウェル ふざけるな!俺は!司教じゃない!大司教だ!大司教なんだ!!
70 ナレーション マクスウェルに押し寄せる亡者の群れは、マクスウェルを包む強化ガラスをかきむしる。
マクスウェル はっ、はは・・・っ。硬化テクタイト複合の強化ガラスだ。傷も付かんよ!亡者共!
ナレーション 強化ガラスに1本の銃剣が突き立つ。強化ガラスは粉々に砕けた。
マクスウェル あ・・・アン・・・アンデルセン!アンデルセン!!
アンデルセン 我らは第13課、神罰の地上代行者なり。我らは一切の矛盾無くおまえの夢を打ち砕く。さらば!我が友!
ナレーション 亡者達がマクスウェルに群がり、飲み込んでいく。
マクスウェル アンデルセンッ、アンデルセンッ!助けて・・・アンデルセンッ!助けて・・・先生・・・先生!お・・・が・・・があ・・・あ、こんな所で・・・俺は・・・こんな所で死ぬのかっ!こんな所で ひとりぼっちで死ぬのか・・・!嫌だ!嫌だ!ひとりぼっちで生まれて・・・ひとりぼっちで死ぬのか・・・畜生・・・
アンデルセン 馬鹿だよおまえ・・・大馬鹿野郎。
アンデルセンより全武装神父隊に告ぐ。第9次十字軍レコンキスタは完全に壊滅した。朝が来る、夢はもはや醒めた。ヴァチカンへ帰還せよ。
ハインケル そ、そんな!アンデルセン!
アンデルセン 貴様らの死ぬ場所はここではない!帰れ!ヴァチカンを守れ 法皇を守れ 未来永劫カトリックを守れ。俺は あいつ を倒す。吸血鬼(アーカード)を倒す!倒さねばならぬ。
80 ハインケル そ、そんな!そんな・・・ッ あんな男と闘ってどうなるというのです。
アンデルセン 否!今だ、今しかない。アーカードが拘束制御を全開放した今、只今がその時だ。あれは奴の持つ全ての命を全て開放して全てを攻撃に叩き込む術式だ。城から全ての兵士を出撃させた総掛りだ。城の中に立つは領主(ロード)がただ一人!奴は一人だ、ただ一人!今やただ一人の吸血鬼 ただ一人のドラキュラだ。恐らくあの狂った大隊指揮官は これが これのみが目的だったのだ。アーカードただ一人を打倒するための生贄だ。千人の武装SSを三千人の十字軍を百万人の英国人を 敵も味方も。きっと俺が征く事も。おさらばだ諸君。マクスウェルが泣いている。どうしようもないあの馬鹿が。相もかわらず意気地のない弱虫めが。おさらば!いずれ辺獄で。
ハインケル 神父!アンデルセン神父!
ナレーション アンデルセンが空を舞い、地上のアーカード目掛け銃剣を振り下ろす。アーカードの銃身が銃剣を弾いた。
アーカード 見事だ、我が宿敵。
アンデルセン 我らは神の代理人 神罰の地上代行者 我らが使命は我が神に逆らう愚者を その肉の最後の一片までも絶滅する事 アーメン。
アーカード 何という男だ。人の身でよくぞここまで練り上げた。
敵よ!殺してみせろ!この心臓に銃剣を突き立ててみせろ!500年前のように!100年前のように!この私の夢の狭間を終わらせてみせろ!愛しき怨敵よ!
アンデルセン 語るに及ばず!
ナレーション アーカード目掛け放たれた無数の銃剣が空中で全て砕け落ちた。アーカードの銃弾が全ての銃剣を打ち抜いたのだ。
アーカード 純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻 マーベルス科学薬筒NNA9 全長39cm 重量16kg 13mm炸裂鐵鋼弾 「ジャッカル」 パーフェクトだウォルター。
90 ナレーション 銃剣を掲げ走り寄るアンデルセンの左腕をアーカードの銃弾が打ち抜いた。アンデルセンは残った右腕でアーカード目掛け銃剣で斬り付ける。手ごたえあり!だがすでにアーカードの姿は遥か後方にあり。2人の間にはアーカードが幾年月を重ね喰らい、使役した亡者達が立ちはだかっていた。
アーカード どうする どうするんだ?化け物はここにいるぞ!キリスト教徒。倒すんだろ?勝機はいくらだ。千に一つか、万に一つか、億か、兆か、それとも京か。
アンデルセン それがたとえ那由多の彼方でも 俺には十分すぎる!!
ナレーション アンデルセンは銃剣を振るう、振るう、振るう。だが振るうほどに、斬り倒す程に。新たな兵(つわもの)達が現れる。
アーカード どうしたクリスチャン。調子はどうだ?満身創痍だな。腕が ちぎれて落ちるぞ。どうするんだ?お前は犬か?それとも人間か?
アンデルセン それがどうした吸血鬼。まだ腕が ちぎれただけじゃねえか。能書き垂れてねえで来いよ。かかって来い。早く!早く!
ナレーション アーカードの表情が驚きに、そして微笑みに変わる。
アーカード 素敵だ、やはり人間は素晴らしい。
アンデルセン おおおおお!爆導鎖! おぐおおおお!前へ!前へ!前へ!
アーカード なんという男だ まるで まるで あの男達のようだ。あの日、100年前のあの日、私は全身全霊を以って闘った。 そして敗れた、完全に。 アーサー、ホルムウッド、キンシー・モリス、ジャック・セワード、そして、そして、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング。夢のようだ。人間とは夢のようだ!来い、さあ来いよアレクサンド・アンデルセン!!敵が幾千ありとても、突き破れ!突き破れ!戦列を散らせて命を散らせて その後方へ その後方へ。私の眼前に立ってみせろ、あの男の様に、あの年老いた、ただの人間の あの男のように あの男のように見事 私の心の臓腑に突き立てて見せろ!
100 アンデルセン おおおおお!邪ァ魔ァアをぉおォォすゥるゥなああ!!
ナレーション 亡者達の数がアンデルセンを圧倒した刹那、銃弾が亡者達を薙ぎ払った。アンデルセンの同胞、イスカリオテ第13課の面々が銃口を構えていたのだ。
アンデルセン !貴様ら・・・!この・・・この馬鹿野郎!この・・・大馬鹿野郎共め。
ハインケル このままヴァチカンに帰ったら私達は私達で なくなってしまう。イスカリオテの第13課で なくなってしまう!ただの糞尿と血のつまった肉の袋になってしまう!
アンデルセン 馬鹿野郎共が誰奴も彼奴も死ぬ事ばかり考えやがって。地獄が満杯になって かわりにヴァチカンはガラガラになって。 いいだろう ついて来い。これより地獄へ驀地(まっしぐら)に突撃する いつものようについて来い!
ナレーション イスカリオテ第13課の面々が進んでいく。銃を撃ちながら、亡者に斬り裂かれながら、貫かれながら、それでも尚進んでいく。イスカリオテ第13課の面々が死んでいく。体に巻いた爆薬を爆発させながら死んでいく。ただ道を作る為に、アンデルセンの銃剣がアーカードを斬り裂く為に。同胞の屍を踏み進み、アンデルセンはアーカードと対峙した!
アーカード あの囲みを突き破り 私の眼前に立ったか。さすがだ、さすがはイスカリオテ、さすがはアレクセンド・アンデルセン。
アンデルセン 殺しきれる武器を持っているのは お前だけじゃないんだぜ。
ナレーション アンデルセンは懐から細長い箱を取り出しアーカードに向けて掲げる。
アーカード それがお前たちの切り札か。
110 ナレーション 箱には「特秘 聖遺物管理局 第3課 マタイ」と書かれている。アンデルセンが箱を握り砕き、箱の中身を携えた。それまで笑みを浮かべていたアーカードの表情に黒き影が差し込み険しき表情へと変わっていく。
アーカード 「釘」か!「聖骸布」「聖杯」「千人長の槍(ロンギヌス)」ローマからことごとく散失した聖遺物最後の一つ。
アンデルセン そうだ
アーカード 「奇跡の残り香」「エレナの聖釘(せいてい)」
ナレーション アンデルセンが「釘」の矛先を自らに向けた。
アンデルセン そうだ!
アーカード やめろアンデルセン!!化け物になる気か!神の化け物に!神の力の不死身の本当の玩具になる気か。同じだ、まるで同じ糞垂れだ。神を肯定した化け物と神を否定した化け物と。そんな奇跡の残骸を使って、お前も奇跡の残骸になるつもりか。
俺を、お前を、俺達の闘争を彼岸の彼方へ追いやるつもりか。俺のような化け物は、人間でいる事に いられなかった弱い化け物は、人間に倒されなければならないんだ・・・やめろ人間!化け物にはなるな、私のような・・・
アンデルセン これ程戦ったのだ本当はお前も分かっている筈だ。俺はただの銃剣でいい。神罰という名の銃剣(バヨネット)でいい。俺は生まれながら嵐なら良かった。脅威ならば良かった。一つの炸薬ならば良かった。心無く涙も無い ただの恐ろしい暴風なら良かった。
これで突き刺す事で そうなれるのなら そうしよう、エイメン。
ナレーション アンデルセンの胸に釘が突き刺さる。メリメリメリッ!という音と共に突き刺した部分から全身を茨(いばら)が侵食していく。
アーカードが歯噛みしながらアンデルセンに近づき銃口を向ける。
アーカード この、この大バカ野郎!
120 ナレーション アンデルセンの銃剣がアーカードの首を刎ねた。同じくしてアーカードの銃がアンデルセンの頭を吹き飛ばしていた。2人の体が後方に傾き倒れる、かに見えた刹那、2人は自らの足で体制を立て直していた。アーカードの体から黒き闇が噴きあがり吹き飛んだ筈の頭部を形作った。そしてなんと!アンデルセンの頭部もまた、茨(いばら)にて形作られていく。
ハインケル 神父・・・!あなたは・・・あなたは一体!何になったのですか!
アーカード アンデルセンはもはや体は人ではない。お前も私も、もはや死んで朽ちて果てるには、ここを えぐるしかないのだ。・・・心(しん)の臓腑を。
ハインケル アンデルセン神父!
ナレーション アンデルセンが両手に携えた銃剣を十字に構える、アーカードもまた2丁の銃を十字に構えた。決闘の始まりである!
先に仕掛けたのはアーカードであった。同時に発射された弾丸はアンデルセンの銃剣の刃の餌食となった。アーカードは連続で銃の引き金を引く。アンデルセンの体を射抜いていく。だがその傷跡も茨(いばら)が瞬く間に修復していった。
茨が体を駆け巡る度に、アンデルセンの体は異形なる物へと変貌を遂げていく。
それはもはや、人で無く、魔で無く、昼で無く、夜でも無い。
アンデルセンは見を屈め力を込めると地面を蹴り空に舞った。アンデルセンの全身を侵食している茨が上下に伸び十字架を形作る。
アーカードが銃を上方に構えた刹那、アンデルセンの銃剣がアーカードの額を貫いた!茨がアーカードの体を侵食していく。
アーカードの世界が、アーカードの世界が燃え出す。アーカードの世界が終わる。燃えて、堕ちる。
アーカード 誰だ・・・あれは・・・誰だ?・・・ああ・・・あれは・・・俺だ。
アーカード
(伯爵)
戦え、皆戦え、皆、神のために戦え。神は助けを乞う者を助けたりしない。慈悲を乞う者を救ったりしない。それは祈りではなく、神に陳情しているだけだ、死ねばよい。戦え、皆、戦え。戦いとは祈りそのものだ。呆れかえる程の祈りの果てに神は降りてくる、神の王国は降りてくる!百人のために一人が死ね、千人のために十人が死ね、万人のために百人が死ね。ならば億土の神の世界のために この私の小さな世界が燃え堕ちても、その果てに神は降りてくる、それは私の祈りの果ての神の王国だ。皆で戦え、裂けて砕けて割れて散る、戦いと戦いと戦いの果てに、みじめな私の元に、あわれな私達の元に、馬の群れのように、神は降りてくる!天上から!
アーカード それで、それで、降りて来たかね?神は、楽園は。・・・どうした、答えろよ王様、狂った王様。・・・皆死んだ、皆死んだぞ、お前の為に、お前の信じるものの為に、お前の楽園の為に、お前の神様の為に、お前の戦いの為に、皆死んでしまった。お前はもう王じゃない、神の従僕ですらない、いや、もはや人ではない。敵を殺し、味方を殺し、守るべき民も、治めるべき国も、男も、女も、老人も、子供も、自分までも。度し難い、全くもって度し難い化け物だよ、「伯爵」。・・・それでもなお「あきらめ」を踏破するのなら。
!・・・声がする・・・呼び声がする・・・。誰だ・・・・誰だ・・・誰だ、私を呼ぶのは。
ナレーション 燃える・・・燃える・・・燃える・・・彼の世界が燃え尽きる。
セラス マスター!
130 アーカード うるさいぞセラス。お前の声は相変わらず良く響く。まるで割れ響く歌の様だ。
アンデルセン、お前に殺されても良かった、あの日なら、あの日暮れの荒野なら、523年前の あの日なら、あの日なら、お前に心臓をくれてやってもよかった・・・でももう、もはや駄目だ。お前に私は倒せない。化物を倒すのは、いつだって人間だ。人間でなくてはいけないのだ!
ナレーション 世界にはあまたの不死の化物達がいる。彼らは不死を望んで存在するのだろうか?彼らの多くは闘争を望む、血みどろの戦いを。それはもはや嗚咽や渇望に近い。それは彼らが戦闘を望むのではなく、死を望む絶叫なのだ。吸血鬼、ドラキュラ、不死者、死なずの君、伯爵。彼は幾年月を超えてきたのだろう、幾千幾万の人々の絶望を喰ってきたのだろう。だがもはや彼には何もない、城も領地も領民も、思い人の心も、彼自信の心も、闘争から闘争へ、何から何まで消えてなくなり、真っ平らになるまで歩き、歩き、歩き続ける幽鬼だ。夜の世界を統べる不死身の化け物である彼が、ひどく哀れな、哀れな、弱々しく泣き伏せる童(わらべ)に見える。
アーカード おおおおおお!
ナレーション アーカードの手が、アンデルセンの心の臓腑を掴み、引きちぎり握りつぶした。
アーカード お前は俺だ!!・・・お前は俺だ・・・俺もこの通りの有様だった、俺もこの通りの様(ザマ)だったんだ!
アンデルセン ・・・鬼が泣くなよ、童(わらべ)に追われたか。鬼が泣くな、泣きたくないから鬼になったのだろう。人は泣いて、涙が枯れて果てるから、鬼になり化物に成り果て、成って果てるのだ。ならば笑え、倣岸(ごうがん)に不遜に笑え、いつもの様に。・・・俺はいく、お前はいつまで生きるのだ、哀れなお前は一体いつまで生きねばならぬ?
アーカード 膨大な私の過去を、膨大な私の未来が粉砕するまでだ。なにすぐだ、宿敵よ、いずれ地獄で。
アンデルセン ・・・声が聞こえる・・・ああ、あれは、童たちの声なのか・・・皆が遊ぶ声がする・・・子供らが・・・行か・・・なきゃ・・・みんなが・・・まって・・・マクスウェルが・・・みんな・・・泣いて・・・は・・・いけ・・・ま・・・せ・・・ねる・・・まえ・・・に・・・おい・・・の・・・り・・・を・・・エイメン。
アーカード ・・・エイメン。