HELLSING episode 8
01 吸血鬼副長 ゾーリン中尉、間もなくヘルシング本部上空です。
ゾーリン よし、総員戦闘準備。
吸血鬼副長 旗艦からの支援攻撃きます!V1改、24基です。
ゾーリン デウス・ウキス・マキーナの露払いか。ヘルシングに腹いっぱい喰わせろ!
ナレーション 24基のV1改ロケットがゾーリンブリッツ支隊の空中戦艦の横を抜け、ヘルシング本部に向け飛行していく。
突如V1改が次々と爆発していく。
ゾーリン な、何事だ!何だ!?何をされている!?
吸血鬼副長 狙撃されています!ヘルシング本部から射撃を受けています!
ゾーリン 何だと!?
ナレーション ヘルシング本部。最上階のヘリポートにセラスがいた。
自らの背丈をゆうに越える巨大な重火器を携えて。
この武装こそ、局地防衛用 長々距離砲撃戦装備ハルコンネルUである。
管制室のベルナドットよりセラスに通信が入る。
10 ベルナドット 全基撃墜だ嬢ちゃん。
新装備の調子は上々だな譲ちゃん。
「ハルコンネルU」 30mmセミオート「砲(カノン)」 最大射程4000m! 総重量345kg!
こりゃ馬鹿と冗談が総動員だ嬢ちゃん。
セラス ベルナドットさんッ 嬢ちゃんって言うの やめてくれませんかッ 私にはセラスって名が・・・
ベルナドット ハッハッハッ そいつあ悪かった「嬢ちゃん」!
ロンドンの仇討ちをしようぜ やっちまえセラス!
吸血鬼副長 V1改 全基撃墜!馬鹿な・・・24基の同時攻撃が!?
ゾーリン 奴だ・・・サーチアイ!サーチアイ!ヘルシング本部を照らせ!
吸血鬼副長 お止め下さい!狙い撃ちされます!
ゾーリン かまわぬ!あの女にはもう見えている!
ナレーション サーチアイが闇を縫ってヘリポートを照らす。
そこには「ハルコンネルU」を背に携え腕組みしながら空中戦艦を睨みつけるセラスが立っていた。
セラスの視線の先には空中戦艦と共にその背後で燃え続けるロンドンの姿があった。
ベルナドット ロンドンが見えるか嬢ちゃん。
セラス 見えます!
20 ベルナドット ピカデリーもソーホーもコヴェエントガーデンも灰になっちまった。あのロンドンがよ、今じゃ地獄と同意語だ。
俺はロンドンなんて嫌いだ。古くせえ街だと思ったよ。俺にゃぜんぜん似合わねえ町だと思ったよ。
でもな、俺達が週末にくり出して行ってたキャバレーはビールが冷えててうまかったし。
バーテンの兄ちゃんもくっだらねえ下ネタが大好きなバカな奴でさ。
売春宿の女郎たちは金に汚くてブスも多かったけど、でもな、みんな優しかったし、みんなかわいそうな目の奴ばっかりでよ。
ヴァービー通りの定食屋のバアさんは、俺頼んでもねーのに俺が行くとフィッシュ&チップスをいつも勝手につけやがる。
俺が外人だからっつって、名物だつって、毎度毎度、俺、アレ、油っこすぎて食えないっつってんのに、バアさんに悪いから、毎度無理に食うのがつらくてさ。
俺はロンドンなんか嫌いだ。でもな、あいつらは、バーテンや女郎達やバアさんはこの闘争とやらと何の関係もねえ。
戦争も、ナチも、吸血鬼も、何も関係がねえ。少佐って奴も、第13課ってのも、最後の大隊も 、俺達ヘルシングも「知ったこっちゃなかった」。
でもあいつらは今、死体になって、死体を食ってる。それが俺には・・・勘弁ならねえ。
セラス、仇討ちをしようぜ。やっちまおう。あいつらやっちまおうぜ。
セラス ・・・うん。わかってる。わかってるよ隊長。わかってる!
ナレーション セラスが「ハルコンネルU」の銃口を空中戦艦に向ける。
ベルナドット 目標!敵 空中戦艦!砲打撃戦用意!てぇ!!
吸血鬼副長 第7ブロック被弾!第3ブロック被弾!第4ブロック火災発生!第2兵員準備室で爆発!後部第4・第5エンジン部崩落!!飛行能力32%低下!
ちゅ・・・中尉!艦を・・・ッ 艦を後退させなければ・・・ッ
ゾーリン もう遅い!あの火砲の前ではこんな船の軽金装甲など紙風船だ。
このデカブツでは逃げられん。下降だ!着陸させろ!強行着陸だ!
ヘルシング本部に・・・いや!奴にぶつけろ!
ベルナドット いかん!逃げろ!セラス!
ナレーション セラスは「ハルコンネルU」を脱ぎ捨て、広域立体制圧用爆裂焼夷擲弾弾筒「ウラディーミル」を構えた。
セラス らあああああっ!
ナレーション 「ウラディーミル」の弾頭が空中戦艦に吸い込まれるように命中し幾重にも閃光を発しながら爆発していく。
30 吸血鬼副長 制御不能!制御不能!お、おちます!
ナレーション 空中戦間は爆煙を上げ地上へ落下し炎上する。
傭兵A おおっ!やった!やったぞ!タリホーッ!タリホーッ!
セラス まだです!
ベルナドット そうだ、まだだ淑女共(レディス)目をあけろ来るぞ!
ナレーション 燃えさかる地上から湧き上がるかのように武装した吸血鬼の集団がヘルシング本部に接近する。
傭兵副長 おちる寸前に脱出したんだ。
傭兵A そんな馬鹿な!何もつけずにか!
ベルナドット そうだ奴らは人間じゃない。化物だぜ!来るぞ がちょう共!(ギース!)仕事の時間だ!ロックンロール!
嬢ちゃんは下がって補給だ。装備変更!急げ!
来るぞ、前戯は終わりだ。今度は俺達の番だ。見てろよ嬢ちゃん。傭兵の戦を見せてやる。
40 吸血鬼副長 残存兵員42名!あの弾頭ただの代物ではありませぬ。
半数以上と重火器の全てを失逸いたしました!されど我ら意気軒昴(いきけんこう)!
ご命令を!ゾーリンブリッツ中尉!
ゾーリン 充分だ。奴らを皆殺しにするには充分だ!
殺す!全員殺す!
ベルナドット 嬢ちゃん 吸血鬼ってのはアレだろ。
人間離れした反射神経や運動能力 獣のように殺気を感じ 恐ろしいバカ力を持つ。
人間の殺気を感じ動きを読み心を盗んで鋭く動く。
銃剣や剣撃を たやすく避け 相手を襲い血を貪るんだろ?
・・・じゃあ、こういうのはどうだい。
ナレーション 先頭を走っていた吸血鬼の足が吹き飛ぶ。
吸血鬼副長 地雷源!地雷源だ!
ベルナドット 止まったぞ、やれ。
ナレーション 地雷原が一斉に爆発し吸血鬼を吹き飛ばしていく。
ベルナドット ビンゴ!人間様を なめるとこーなる。
セラス こ、こんな仕掛けを・・・ッ!
ベルナドット しかけ?バカがつっこんでくるから悪いんだ 真正面から。
殺気も心も動きも無い発動装置。そして 点ではなく避けられない面攻撃。
法儀礼済みボールベアリングのクレイモア地雷列60個の同時点火。
避けられるモンなら避けてみろっつうの。
俺たちゃケンカ弱いからよ。おっかねえから正々堂々とケンカなんかしねえぜ、軍人さんたちよう!
3階!グレネード斉射!連続発射で火線を張れ!連中に頭を上げさせるな!
面だ!徹底的に面で攻撃しろ!
ライフル分隊は分隊火力の全てを第一目標の目標周辺ごと集中弾幕射撃!
50 傭兵副長 隊長!連中の進撃が止まりました。
小丘の斜面に伏してピクリとも動きません。
ベルナドット 何かたくらんでやがるな だが今はそれでいい。
近づけさせなければ俺達の勝ちだ。
俺たちの初めての お留守番だ。駄賃目当てのな。
怖いオッサン共を家に入れたら俺達の負けだ。
俺達ゃケンカ弱いからよ。
傭兵副長 奴ら退きますかね。
ベルナドット 普通ならな 人間ならな 人間なら退く。間違いなく、とっくに。
だが、奴らは人間じゃない、バケモンだ。
傭兵A うわあああ!何だ、何だあれは!
傭兵副長 何だ!何があった!おい!
ナレーション ヘルシング本部を照らす月を、巨大なる人型の物が阻んでいた。巨人はゆっくりと身を屈め、ベルナドットの居る部屋の窓を覗き込んだ。
ベルナドット !!おい・・・何の冗談だおい・・・
ナレーション 巨人は立ち上がると腕に携えた巨大な剣を天高く掲げ一気に振り下ろす。
ヘルシング本部は真っ二つに斬り裂かれ、激しく揺れた。
傭兵副長 こッ こんなこんなッ こんな馬鹿な事があるかぁ!
60 セラス 嘘だ これは嘘だ 何だかわからないッ だけど・・・ッ 私の中の何かがそう教えてる。・・・幻!?幻覚だ!!
傭兵A うわああああ!助け・・・助けてくれぇ!ば・・・化物だああ、足がッ、俺の足が!助けてくれぇ、うっ、動けねぇえっ!
セラス しっ、しっかりッ、しっかりしてくださいッ、幻ですッ、幻覚だったんですッ!
傭兵副長 腕がっ、俺の腕がっ!
ナレーション 傭兵達は幻覚に囚われ半狂乱となっている。セラスは意を決し遥か先を見据えライフルの引き金を引いた。銃弾は幻覚の主であるゾーリン中尉の頬を掠めた。ヘルシング本部を包んでいた幻が波が引くように消えていく。
傭兵副長 な、何だ、何だ今のは!
セラス しっかりして下さい!幻ですッ 幻術か何かです!
ベルナドット 幻術ゥ!?幻だと!あれが!?
ゾーリン その通り幻だ!よくぞ見破ったセラス・ヴィクトリア!だが、だがもう遅い!
ナレーション 吸血鬼達がヘルシング本部に雪崩れ込む!応戦をものともせず、次々と傭兵達に襲いかかる!
70 ベルナドット こいつはヤベェ、正面が破られた。
ゾーリン カハッカハッカハッ さあ〜もう許さない!さあ〜もう誰も助からない!さあ〜さっさと死んじまえ!
ベルナドット 兵隊を集めろ。分散してる連中も遅滞戦闘をしながら退かせろ。
残った兵士はここに全部集めろ!
弾薬と手榴弾をありったけ持て。
譲ちゃん!
セラス はッ はいッ
ベルナドット 俺たちは ここに立てこもる。
俺たちがディフェンスで、嬢ちゃんがオフェンスだ。
俺たちがここを守る、その間に嬢ちゃんが奴らをやっつける!
セラス やっ、 了解(ヤー)!
ベルナドット 嬢ちゃんが俺たちの切り札だ。
やっつけろ!だけど、俺たちが奴らに細切れにされる前に だ。
傭兵副長 たのんだぜ。
セラス はッ はいッ!
ベルナドット あ、一つ大事な事忘れてた。
80 セラス え?
ベルナドット セラース!
セラス はッ はいッ!
ベルナドット 目えつむれーッ!
セラス はッ はいッ!
ナレーション 反射的に目をつむるセラス。だが顔前に何かを感じ取り目を開ける。そこにはセラスに唇を重ねようとしているベルナドットの顔があった。
セラス ぎゃーッ! ぎいやーーッ!
ベルナドット チッ
セラス なッ なッ 何すんですかッ 何をすんですか!なッ なッ 何をッ なッ な 何すんですかあッ!!
傭兵副長 ああッ ズルイッ 。
90 傭兵A 隊長ズルイッ、俺も!
セラス バッ、バカーッ!
ベルナドット へへへ・・・セラス譲ちゃん。
死ぬんじゃねえぞ、死ぬなよな。
セラス 隊長も!みなさんも!
ベルナドット よおし!征(い)け!
セラス 征(い)きます!
ナレーション セラスが走る。戦いの場へ。傭兵たちはセラスの後ろ姿を見送っている。
傭兵副長 いい娘ですよね。
ベルナドット ああ、ホント、バカみたいに いい娘だ。
あんな娘死なせたら男の名折れだ地獄行きだぜ。なあ?おい。
傭兵副長 ですな。
100 傭兵A ウン、いや ほんと まじでまじで。
ベルナドット じゃあ悪いが お前らの命をくれ。
ここがお前らの命の捨て場所だ。
持ち場を墓穴と思えよ。
傭兵副長 隊長〜あのねー。ここは普通はアレですよ。逃げたい奴は逃げろ!とか
部下は脱出させて自分だけ残るとかそーいうのですよ。
ベルナドット 何を言ってやがる。お前ら小銭目当てに好き好んで戦争屋になった親不孝共じゃねぇか。
さてと死のうぜ犬ども。畜生(ファック)畜生(ファック)って言いながら死のうぜ。
腹に銃弾くらってよ、のたうち回って。
傭兵副長 へへへ、そりゃそうだ。ちげえねぇ、まったくもって ちげえねえや。
ナレーション 吸血鬼たちの侵攻は、傭兵たちの反撃も虚しく最深部へと進んでいく。ベルナドットの元に次々と訃報が届く。
ベルナドット 合流できねえだと?バカ抜かせ、はってでも来い!
こっちは円卓室で立てこもる準備中だ。ここが一番頑丈だからな、ここなら暫く凌げる。
そこじゃ簡単に死んじまうぞ、バリケード開けて待ってんだ!どうにかして来い!
バリケードを閉めろ?馬鹿野郎!
・・・畜生そうかよ糞ったれ。わかったよ死んじまえ。じゃあな、楽しかったぞ。
・・・バリケードを閉めろ。このデカい円卓も引っくり返してバリにしろ。何でも構わんから積上げろ。
傭兵副長 隊長、B棟の連中は・・・?
ベルナドット 駄目だった。
傭兵副長 そうですか、残念です。
110 傭兵A もう駄目だ、俺達はもうおしまいだ。
傭兵副長 うるせえ!馬鹿野郎!
傭兵A もう化物の相手なんか嫌だ!もう限界だ!インテグラもアーカードも俺達を見捨てやがった!
ベルナドット 何いってんだ おめえは。どこにも出れねぇし、どこにも行かさねぇぞ。
傭兵A 俺は帰る!もういやだ!
ベルナドット どこに行く気だ?おまえの墓穴はここだぞ。墓標はこの馬鹿でかい館。
墓守りは、あのおっかねえインテグラ譲だ。
碑文にはこうだ、「すごく格好良い傭兵達が悪いナチスをやっつけて、すごく格好良くここに眠る」
だがお前のせいで変わっちまう、お前がメソメソしてるから「ヘタレの根性無し女の裸に泣きながら虫のようにくたばる」
冗談じゃねえ、おまえには無理矢理でもカッチョよく死んでもらうぞ!好き好んで金貰って好き好んで戦争やってんだろが!おい兵隊!だったら好き好んで戦って死ねや!
傭兵A 糞・・・っ、くそぉ、畜生(ファック)、畜生(ファック)!
ベルナドット それにな、まだ死ぬと決まったワケじゃねえよ。俺達ゃディフェンスだ。ホレ!さっさとバリを組むんだよ!
オフェンスが今 点数を引っくり返すさ。
ナレーション 虐殺を繰り返しながら侵攻を続ける吸血鬼たちを砲弾が吹き飛ばした。セラスが両手に携えた「ハルコンネルU」が火を噴いたのである。セラスは傭兵たちの屍を険しい表情で見つめ同じ言葉を繰り返していた。
セラス やっ やっつけますからッ あいつらッ あいつら全員、やっつけますからッ!
120 傭兵副長 クソッ!バリケードがッ!衛生兵!こっちだ!
ベルナドット そっちの椅子を持ってこい早く!塞げッ早くッ!バリケードだッ早くしろ!
傭兵A もう駄目だあっ!
ベルナドット 黙れ!馬鹿野郎!残弾を再分配しろ。
傭兵副長 これで最後です。法儀済銀弾が尽きました。隊長、こいつを!この弾奏でカンバンです。
傭兵A 隊長ッ、もう嫌だ、死にたくないッ。
ベルナドット うるっせえな、俺だって本当は死にたかねえよッ。
傭兵A 降伏したって全員なぶり殺されるぞ!相手は化物だ!喰われちまう!
傭兵副長 まるであの時と一緒ですね。ウガンダ・ジャン・グ・ワイデの飛行場右翼陣地。
あの時は救援が間に合いましたが・・・今回は・・・クソ、駄目ですかね。
ベルナドット 馬鹿抜かせ副長!あいつは来る!必ずやって来る。そういう女だ!
ナレーション ロケット砲がベルナドットたちのバリケードを吹き飛ばす。
ベルナドット !畜生!ロケットかッ、くそッ、連中まだあんな物を・・・ぐッ!
ナレーション ベルナドットの腹に瓦礫の破片が突き刺さっていた。血が滴り落ちる。
130 ベルナドット 全員!報告しろ!副長!被害報告を・・・副長!副・・・ッ!!
ナレーション 副長の下半身はロケットの爆撃で吹き飛ばされていた。
ベルナドット 副長!おい!副長!
傭兵副長 もう疲れました・・・先に休んでいいですか。
ベルナドット ああ ゆっくり休め じゃあな。
吸血鬼副長 命中です。突入しますか?
ゾーリン いやまだだ。もう一発ぶちこめ。
吸血鬼副長 ロケットはあと一本しかありません、虎の子ですよ?
ゾーリン かまわんやれ、吹き飛ばしてやれ。哀れな連中を木っ端微塵にしろ!
吸血鬼副長 了解。
140 ゾーリン 殺れィ!!
ナレーション その時!ロケットを構えていた吸血鬼が吹き飛んだ。その先には「ハルコンネルU」を構えたセラスが立っていた。
傭兵A 隊長・・・。
ベルナドット ああ、きたぜ、約束通り、本当に来たぜあの娘、たった一人でバケモノ共を皆殺しにして。
ああ畜生、くそッ いい女だあ、あいつ本当に、畜生め。へッ 無理矢理にでもキスしちまえば良かった。へへへッ。
ゾーリン な!くッ!・・・直接火砲支援(ダイレクトカノンサポート)・・・ッ!・・・ッ 貴様は!セラス、セラスビクトリア!
セラス 残っているのはあんただけよ!
ゾーリン それがどうした!
ナレーション 床に付けたゾーリンの手の平を始点に幻覚世界が広がりセラスを包んでいく。
セラス ああああああ!幻覚ッ幻覚だ、嘘だ!幻覚だ!惑わされるなッ 幻なんだ!
ゾーリン もっと奥へ!もっと、もっと奥へ
150 ナレーション ゾーリンがセラスの心の奥底にある暗き過去を暴く。クローゼットの中で震える幼きセラス。下卑た男達の話し声が聞こえる。先程まで夕食の湯気が漂う幸せな食卓であった場所は血に染められていた。母親の手で入れられたクローゼットの中で震える幼きセラスが隙間から見たものは、肉塊となった父の姿だった。そして母親の先には、男達の銃口があった。乾いた銃撃の音が響く。母親が倒れた床に血が広がる。セラスの中で何かが弾けた。セラスはクローゼットを飛び出すと床に落ちていた食事用のフォークを掴み男の眼に突き刺した!男は悲鳴をあげセラスを振りほどくと引き金を引いた。弾丸はセラスに命中し三度(みたび)部屋を血に染めた。仮死状態となったセラスの視界の先には、母を死姦する男の姿が写っていた。
セラス あ、あ、あ、あ、あ
ゾーリン おはようセラス譲ちゃん!良い夢みれたかしらん!?
ナレーション ゾーリンの大鎌がセラスの左腕を斬り落とし、返す鎌がセラスの腹を貫き、両目を斬り裂く。床に倒れ、のたうつセラスをゾーリンが見下ろしている。
ゾーリン あっはあははッ♪頑丈な女だねぇ!
ゴミめ!だらしのない女だ!さあてそろそろ、そろそろ死んで貰っちゃおうかなぁ♪
ナレーション ゾーリンは床を のたうち回るセラスの頭を足で踏みつける。
セラス が・・・がはッ かは げばあ
ゾーリン ははは!おまえは!虫か蛙か!なんだお前、話に聞いてたのとは全然違うねェ。さあていよいよお待ちかね!そろそろその首をばチッ切り取るとしようかね!死ィィねええい!
ベルナドット うるせえぞブス
ゾーリン な・・・!?
160 ナレーション ゾーリンの背後に回っていたベルナドットは至近距離で銃を乱射すると傷ついたセラスを担ぎ撤退を計る。傭兵が煙幕弾でサポートする。
傭兵A 急げ!隊長!こっちだ!早く!隊長!
ベルナドット あいよォッ!
セラス ベ・・・ルナ・・・・隊・・・ちょ・・・
ベルナドット しゃべるな!
ナレーション 吸血鬼の放った銃弾がベルナドットの足を撃ちぬく。
ベルナドット !ぐっ・・・ッ、くそおおおッ!
セラス ベルナドットさんッ 逃ッ 逃げてッ もうッ いッ いいですッ ベルナドットさんッ
ベルナドット うるせえって言ってんだよ!  !かッ!うお、くっ!
傭兵A 畜生!畜生!くそうッ!
170 ナレーション 傭兵が吸血鬼を撃ち倒しベルナドットに駆け寄った瞬間、ベルナドットの体をゾーリンが投げた鎌が斬り裂いた。
ベルナドット か・・・うお・・・く・・・ガハッ!
ナレーション バルナドットはセラスを抱えながら、よろよろと壁に背を付き、壁を血に染めながら床に座り込む。
ゾーリン 人間(ゴミ)が!ゴミクズが気張りやがって!
セラス ベルナドットさんッ! ベルナドットさんッ!
ベルナドット バカッ・・・バカッやろ。へ、へへ、助けに来たおまえが、俺、俺に助け、られちゃあ、せ、世話がねえ・・・な。
セラス 【泣きながら】

ベ・・・ッ ベルナドット、ベルナドットさん!!
ナレーション ベルナドットはセラスの唇に自らの唇を重ねた。
ベルナドット ・・・けっははっ、がはッ、ゴホッ、ボサッとしてるからだ。けへへッ、やっと、唇、うばってやったぞ・・・ッ。
なあ、泣くなようセラス、おまえはしぶとい女じゃん。
俺を喰えよう、俺を喰って、一緒にやっつけようぜセラス。
ナレーション ベルナドットの体が壁を滑り、ゆっくりと床に倒れていく。
180 ベルナドット
(心の声)
バカ 泣くなって言ってんじゃねーか。おまえ目玉えぐられてんだぞ、バカだなあ。腕だってちぎられてんだ、ボロボロじゃん、バカな女だなあ。
ああ畜生、畜生め、いい女だなこいつ。こいつ守って死ぬんなら・・・別にいい。
セラス あああああああ!うわああああああああああ!
傭兵A 隊長・・・そんな・・・くそっ、くそっ!
ゾーリン 泣かせるじゃあないか、ええ!ゴミの様な虫けらの分際で喧しく飛び回るからそうなる!
さあてよくもまあやりもやってくれたねえ!さあてどうしてくれようかねえ!
うるさい小虫は平手で潰してしまいましょう。
傭兵A うあ、く・・・、くそ・・・くそう!
ゾーリン 虫の人生はこれにてーッ 終ゥー!了ゥー!
ナレーション ゾーリンが再び右手を床につけた。幻覚世界が周囲を包む。
傭兵A う、ああ、あ、またか!またか畜生!
セラス 虫といったな!この人を、虫けらといったな!!許さない!許さない!許さない!!
ナレーション ベルナドットを抱いたセラスは首を後ろに反り返し、口を大きく開くとベルナドットの首筋に噛み付き血を飲んだ。
黒き闇がセラスのもぎとられた左手から生み出され漂う。そして失った筈の眼(まなこ)が見開かれた!
刹那、ゾーリンの幻覚世界が音を立てて崩壊していった。
190 ゾーリン なッ!何だと・・・何だとお!?
セラス 征(ゆ)きます、ベルナドット隊長。征(ゆ)きます、征(ゆ)きます!一緒に行きます!一緒にあいつらを、あいつらをやっつけます!!
ゾーリン
(心の声)
なんだ!?なんだこれは。兵士共が怯えている、あの吸血鬼兵隊が。戦場を跋扈し砲火を疾駆した百戦錬磨の武装親衛隊が。眼前の一人の少女に怯えている。満身創痍の一人の少女に怯えている!
こいつは 一体何だ!?やばい!やばい!!やば・・・ !
ナレーション 瞬く間に眼前に迫ったセラスの手がゾーリンの顔を掴み上げ床に叩き付けた。
ゾーリン おご・・・も・・・!ごおおお!ぶお・・・ッ ぶッ お・・・ぼッ ぼお ぼおッ
ナレーション 抵抗するゾーリンの手をセラスの牙が喰いちぎり吐き捨てる。
ゾーリン ぎッ!いいいいいッ!
セラス お前の血など一滴、一片たりと飲んでやるもんか!やるもんか!やるもんか!
ナレーション ゾーリンは残った左手でセラスの顔に触れると心の中への潜入を試みる。
ゾーリン 奥!、奥へッ、奥へッ、もっと奥へッ!もっと奥へッ!もっと奥へッ!!・・・な・・・なんだ、誰だこれは、何だこれは!違う!こいつはこいつじゃない、「記憶」が・・・ッ、「心」が・・・ッ、混ざり合って、何だ!誰だ!誰の心だ!・・・あいつか!!私が虫けらと呼んだあの男か!!
200 ナレーション ゾーリンがセラスの心の中にベルナドットの姿を見た刹那、その中に新たな来訪者が現れた。
シュレディンガー 血液とは魂の通貨、意志の銀板。血を吸う事、血を与える事とは、こういう事。
お元気?まだ生きてる?
ゾーリン シュレディンガー!!
シュレディンガー そんなに おどろかないでよ。僕は どこにでもいるし、どこにもいない。
ゾーリン、少佐からの伝言を お伝えしまーす。
「抜け駆け先撃ちは兵(つわもの)の花」「ああ やっぱり」「ならばそして」「命令を反し あたら兵を失った無能な部下を処断するのも また指揮者の華」だってさー。
本当なら とっくにもうボーボー燃えカスになってる所なんだけど、少佐の博士(ドク)も、今 物凄い面白い おもちゃを手に入れて そっちに夢中で おまえに かまってる暇無いんだってさー。
この怪物はもう、セラス・ヴィクトリアであってセラス・ヴィクトリアじゃない
おまえの処刑はこの吸血鬼がやってくれる!
じゃあね♪
ナレーション ゾーリンの幻が消える、現れたのは逃げようのないリアルだった。
セラスはゾーリンの頭を壁に打ち付けるとそのまま壁に沿って走り出した。
ゾーリンの頭部が見る見る削ぎ落ちて行く。
セラス 消えろ!わたしの前から!わたしの心から!
傭兵A これが・・・これが・・・あの譲ちゃんかよ・・・。
ナレーション セラスは絶命したゾーリンの躯から手を離すと、ベルナドットの亡骸に歩み寄り、しばし見つめたまま口を開いた。
セラス ・・・いってきます。
傭兵A !・・・いってきます・・・って・・・ど、ど、どこに!?
210 セラス 約束したんです隊長と、あいつらを やっちまおうって。
だから あいつらを 「やっつけちまいに」征(い)ってきます。
傭兵A あ・・・
傭兵A
(心の声)
ああ、そっか、隊長、あんたは ここで おっ死んだ、ここで。
でも あんたは、「そこにも」いるのか。
傭兵A 待ってくれ!
ナレーション 傭兵はセラスに向け敬礼をした。セラスは笑顔で頷くと、窓の近くまで助走をつけ床を蹴りあげ空に舞った。
左腕より漂う黒き闇が羽を形作りセラスを夜の大空へと誘って言った。
夜が白み始めた・・・夜が明ける。
セラスは もはや陽の光すら意に介さず、引き絞られた矢弓の様に飛んでいく。
死都に向かって、暁の出撃!