HELLSING episode 4
01 ナレーション 1999年7月13日 ヴァチカン 部屋の中央の机に13課局長マクスウェルと年老いた司教が向かい合わせに座っている。
司教 私がその少佐と初めて会ったのは・・・もっともその時はまだ中尉の階級章をぶら下げていたが、41年バルバロッサ開始直後の頃だ。年の頃は・・・そう、20代半ば26〜27といった位で背丈は160cmそこそこ・・・軍人としては酷くチビだ。かなりの小太り・・・いや、あれは肥満に入る。とてもじゃないが親衛隊の仕官になど見えやしなかったよ。
マクスウェル 成程 成程、そうでしょう そうでしょうな司教様。そしてあなた方 当時のヴァチカン欧州総局は彼と彼の機関を支援した。
司教 総統直下の命令書を携えたその「彼」は我々に協力を求めた。いや、協力を強要させられたんだ!いつもニタニタと薄ら笑っている様なあの目、ほおの肉皮をわずかにゆがませ上げる様なあの嫌な笑い方。今思い出しても本当に虫酸が走る様な男だった。「彼」は言ったよ、「戦争の歓喜を無限に味わうために次の次の戦争のために」このチビで太ったメガネの一介の中尉風情が・・・まるで魔界の軍団長の様な口振りで。
マクスウェル そして彼らは堂々と行動を開始した。表向きは・・・それすら裏だが占領地からの物質人員輸送計画。しかしそれだけではない、そんなものは「コレ」に比べれば瑣末(さまつ)な事でしかない。
司教 !なっ・・・!
マクスウェル そもそも本来は物質計画なぞ、コレのための資金集めでしかない。「吸血鬼製造計画」 秘匿名「最後の大隊」
司教 !!な・・・君らは・・・君らは一体どこまで・・・
マクスウェル 我々はそのために いるのですよ司教殿!舐めてもらっては困りますな。何か勘違いをなさっている様だ。これは情報調査や事情聴取ではありませんよ!内部調査?否!弾劾裁判?否!これは宗教裁判ですよ!強要された?馬鹿馬鹿しい!あなた方は喜々として協力したんだ!ナチ親派?親ドイツ?いや違うね!吸血鬼にして欲しかったんだろ!?あの男の口車に自ら望んで乗り込んだんだ。神に背を向けて魂を売り渡してまで欲しいのか?そんなモノが?恥知らずな司教殿!しかしその吸血鬼研究も間に合わなかった。ようやく完成したのは不完全な食屍鬼(グール)だけ。それでも戦線に投入されたならば恐るべきものとなった筈だが、彼らに壊滅させられた・・・ヘルシングに。
10 司教 わっ、私は・・・だまされたんだ。あの男がっ、あの男がいけないんだ!私だけじゃないっ、私だけじゃ・・・あの当時は皆が・・・あいつらにっ!
マクスウェル 仮にも司教様ともあろうお方ですよ あなたは。もっと しゃっきりとしたらどうです。
司教 助けてくれ頼むっ、マクスウェル後生だっ、私は・・・私はっ。
マクスウェル 残念ながらそれは出来ませんな。あなたも神の下僕なるものだったなら、あんなものに与(くみ)したものがこのヴァチカンに存在していい訳が無いでしょう?エイメン!
ナレーション 南米ブラジル リオデジャネイロ上空 巨大空中船が浮遊している。管制室の最上部には眼鏡をかけた小太りで小柄な男が椅子に腰掛けている。男は薄ら笑いを浮かべながらテレビ中継に見入っている。
少佐 あっはっはっはっ。あの伊達男がまるでボロ雑巾じゃないか。やっぱり強いなぁあいつは!べらぼうに強いな!存外に強いな!今回の戦(いくさ)は大成功に近い。あのアーカードに我々は一定の戦果をあげたのだ。それは驚くべき存在への媒介だ。怪物、人外、夜族、物の怪、異形、それはもはや人ではない・・・化物!すなわち我々は半世紀の時をかけ、その本懐へと指をかけたのだ。化物を構築し、化物を兵装し、化物を教導し、化物を編成し、化物を兵站(へいたん)し、化物を運用し、化物を指揮する。我らこそ遂に化物すら指揮する「最後の大隊」。・・・では諸君、楽しい楽しいショーもひとまずお開きだ。そろそろ帰ろうじゃないか、愛しき我が家へ。目標、「豹の巣」。私の邪魔をする奴が何百、何千、何万、何億死のうが 知ったことじゃない。否!私のゆく道に立ちはだかる者は皆死ぬのだ。
ナレーション ロンドン ヘルシング本部執務室 インテグラとウォルターがいる。電話が鳴った。
インテグラ アーカードか?
アーカード そうだ。
インテグラ 今どこにいる?
20 アーカード リオ郊外、セントローズとかいう辺鄙(へんぴ)な町だ。任務は果たしたぞ我が主。私は連中の考えている事を私の脳味噌に刻みつけたぞ。
インテグラ ・・・御苦労。
アーカード 了解。
インテグラ すぐに帰還しろ、報告を正式にしろ。
アーカード ほう、その調子では円卓にずいぶん しぼられたか?
インテグラ それならば まだどれほど気が楽か。その上から直々の御命令だ。
アーカード その上?すると?
インテグラ 陛下御自ら円卓を召集なされた。
アーカード ほう!女王が!
インテグラ 笑いごとか!?笑いごとではないぞ、すぐに脱出し帰還しろ!彼女を待たせるな!13課も動き出している、連中に出し抜かれたくはない!
30 アーカード 了解。時にインテグラ、戦争の愉悦の具合はどうだったかな?局長殿。たぎったかね?赤黒く燃える炎を見る事はできたかな?
インテグラ うるさい!バカ!知った事か!さっさと帰ってこいバカ!!
アーカード フフフフフフ、フハハハハハ。まさしく人間とは複雑怪奇、フハハッ。
ナレーション ロンドン郊外 王室別館 クラウニーハウス。女王陛下及び円卓会議の面々の中、ヘルシング局長インテグラ、13課局長マクスゥエルがいる。女王陛下がインテグラにアーカードの到着の有無を尋ねる。
女王 ヘルシング卿、まだ彼は到着しないのですか。
インテグラ はっ、もう間も無く到着すると。・・・マクスウェル、アーカードの迎えに、よりによってあのアンデルセンを向かわせたそうだな。
マクスウェル 現在我々は不愉快なことに後手後手に回っている。我々の行動は完全に奴らに筒抜けだ。彼程の手練(てだれ)でなければ接触すら出来なかったろう、奴らの協力者はあらゆる所に はびこっている。政府、軍部、経済界、宗教、エトセトラエトセトラ。永遠の命という誘惑に堪え勝てる程の人間など少ない。そうだとも、世界中にいる。英国にも、ヴァチカンにも、そして多分この中にも。糞虫共め。
ナレーション 部屋の扉が開きアーカードとセラス達が入ってくる。
アーカード 全員おそろいとは誠に重畳(ちゅうじょう)。・・・ただ今帰還した、我が主。
インテグラ 任務御苦労、我が僕。女王の御前だサングラスを取れ。
40 ナレーション アーカードはサングラスと外すとツカツカと女王のもとへ歩み寄った。
女王 お久しぶりね、ヴァンパイア。
アーカード 50年程ぶりかな、そうか、もう女王になったのだったな。
女王 顔を良くお見せなさい。・・・貴方は何も変わらないのねヴァンパイア。私はもうこんなに、こんなにも年老いてしまいました。もうしわくちゃのお婆ちゃん。
アーカード 貴方も50年前の様な おてんばのままだ お嬢さん。いや、貴方は今こそが確実に美しいのだ女王。
女王 ふふ、・・・報告をなさい、ヴァンパイア。
アーカード 昔々ある所に狂った親衛隊の少佐がいた。「不死者達の軍隊を作ろう不死身の軍勢を作ろう」膨大な血と狂気の果てにその無謀を成就しつつあった。
インテグラ それがミレニアムか。
アーカード そうだ、だが55年前に、その計画を台無しにしてやった。この私とウォルターとでだ。だが、連中は心底あきらめなかった。誰も彼もが彼らを忘れ去り忘れ去ろうとした。だが連中は暗闇の底で執念深く確実に存在してきた。ゆっくりとゆっくりとその枝葉を伸ばしながら。今や彼らの研究は恐るべき吸血鬼を完成させる地平にと到達している。吸血鬼の戦闘団、不死身の人でなしの軍隊。これこそまさにジークフリートの再来神話の軍勢。第3帝国最後の敗残兵「最後の大隊」
ナレーション 突如部屋のモニターの電源が付き、男の映像を映し出した。動揺する周囲とは裏腹にアーカードが笑みを浮かべ男に話しかけた。
50 アーカード やあ少佐。
少佐 久しぶりだねえアーカード君。再び出会えて歓喜の極みだ。
インテグラ お前が敵の総帥か。
少佐 おお 貴方がヘルシング機関長インテグラ・ヘルシング卿ですね。お初にお目にかかる。
インテグラ 何が目的だ、何が目的でこんな馬鹿な真似をする?答えろ!
少佐 目的?美しいお嬢さん、それは愚問というものだ。極論してしまうならば、我々には目的など存在しないのだよ。「目的の為ならば手段を選ぶな」君主論の初歩だそうだがそんなことは知らないね。いいかなお嬢さん、貴方はかりにも一反撃勢力の指揮者ならば知っておくべきだ。世の中には「手段の為ならば目的を選ばない」という様な、どうしようもない連中も確実に存在するのだ。つまりは我々のような。
マクスウェル 狂ってるよ貴様ら。
少佐 ふうん、君らが狂気を口にするのかね?ヴァチカン第13課局長。
マクスウェル ああそうだ。お前達はマトモじゃない。
少佐 ありがたいことに私の狂気は君達の神が保証してくれるという訳だ。よろしい、ならば問おう、君らの神の正気は一体どこの誰が保障してくれるのだね?一体どこの誰に話しかけているか判ってるかね?私が黒衣のSS軍装を着ていれば良かったかな?我々は第3帝国親衛隊だぞ?一体何人殺したと思っているのかね?戦争と暴力を呼吸するかの様に扱う髑髏の集団にかね?イカレテイル?何を今更!半世紀程言うのが遅いぞ。よろしい、結構だ。ならば私を止めてみろ自称健常者諸君!しかし残念ながら私の敵は君らなどではないね少し黙っていてくれよ13課。私の敵は英国!ヘルシング!、いや!そこで嬉しそうに佇んでいる男だ。
60 アーカード クックックックックッ、ハハハハハハ!執念深い奴らだ、素敵な宣戦布告だ。いいだろう、何度でも滅ぼしてやろう。
少佐 そうだとも我々は執念深く根に持つタイプでね。くだらん結末など何度でも覆してやるさ。
インテグラ 宣戦布告?馬鹿馬鹿しい。お前達はただのテロリスト集団に過ぎない。御大層な戯言はもう結構だ、我々は貴様らの存在を排除する。我々は我々の仕事に取り掛かるだけだ。
少佐 震えるこぶしは隠して言いたまえお嬢さん。・・・・成る程これはいい・・・いい当主だ。アーカードが入れ込むのも分かるというものだ。さようならお嬢さん、戦場での再会を楽しみにしているよ。それでは御機嫌よう。

【モニター画面OFF】
ナレーション モニターの画面が消える。静寂の中、女王が言葉を放った。
女王 ヘルシング卿、アーカード、命令よ、彼らを打ち倒しなさい。
ナレーション 南米ブラジル リオデジャネイロ 路地裏 アンデルセンが携帯電話で話している。周囲には地面を覆う程の亡骸が転がっていた。
アンデルセン なる程、そうなのでしょうね。情報はまるでザルの様に連中につつ抜けなのでしょうね。ここに来てからもうすでに4度目の襲撃を受けました。想像通り彼らの手は長い。しかし分からないのは連中一人も吸血鬼を繰り出してこない。次から次へと吸血鬼信者の糞共はしゃにむに来ますがね。舐められたものです。
マクスウェル それは足止めだな、時間稼ぎだ。
アンデルセン でしょうね。問題はその吸血鬼どもが何をやろうとしているかですな。
70 マクスウェル 連中の目標は英国だ。ふん。
アンデルセン マクスウェル、貴方のもくろみ通りになってきましたね。愉快でたまらないのでは?
マクスウェル 半分はな、だが、もう半分は不愉快 極まる!
アンデルセン 不愉快ならば何故言い返してやらなかったのか。我々の神が狂気だと言われたのに。
マクスウェル ・・・いや無駄だ。奴には我々など大して眼中に入っていない。奴の関心は全てヘルシングとアーカード。言葉で何か言っても意に介さないだろう。ならば我々がする事は言葉で何か言う事では無い。
アンデルセン 最高のタイミングで横合いから思い切り殴りつける。
マクスウェル そうだ!最後の最後にリングの上で拳を上げて立っているのは我々だ。先程教皇猊下の命をもって動員令が下された。
アンデルセン ほう。
マクスウェル マルタ騎士団、聖ヨハネ騎士団、ホスピタル騎士団、聖ゲオルギオ槍騎士団及びスイス傭兵団の本営もこちらに移動させた。聖遺物管理局第三課「マタイ」も行動を始めた。対吸血鬼戦術専門に想定した武装を準備している。
アンデルセン ふふふ、それではまるで十字軍ですな。
マクスウェル そうだ、そうだとも。だが敵はアッラーではないぞ。今度の神は戦争の女神だ。上等じゃないか、城壁という城壁に、町辻という町辻に、かつての我々のように奴らの死体を積み上げよう。貴様は我々の切り札、鬼札だアンデルセン。手段を問わず帰投せよ。
80 アンデルセン わかりました。
マクスウェル 精霊の子の御名において。
アンデルセン エイメン。
ナレーション 電話を切ったアンデルセンは鬼の表情となり襲撃の機会を見計らっていた武装集団に向け歩み寄った。
アンデルセン そんな玩具でこの俺がどうにか出来るとでも思っているのか。
ナレーション アンデルセンは銃弾を物ともせず瞬く間に武装集団を銃剣の餌食にしていく。
アンデルセン 戦争の女神!よかろう アバズレめ、我らの神罰の味かみしめるが良い。