HELLSING episode 3
01 ナレーション 夕刻、雨の墓地 葬式が粛々と行われている。
ウォルター 陛下と英国と国教を守らんがため、志半ばにして倒れた我らが同士、防国の騎士達に敬礼!
ナレーション 後日、ヘルシング本部執務室。
ウォルター まずは本部施設の再建が急務です。ヘルシング ロンドン本部構成員96名のうち生き残ったのは わずか10名。その内 8名はその日、本部の外にいたから生きていた様なもので、結局あの戦いで生き残った局員は私とお嬢様だけという事です。
インテグラ セラスとアーカードが数に入っていないようだが。
ウォルター はい、あの2人は・・・すでに死んでおります故に。
インテグラ ・・・なるほど、そうか。「例の件」の調査はどうなっている。
ウォルター はい、「ミレニアム」・・・ですな。
インテグラ そうだ、何にもましてそれが重要な事だ。
10 ウォルター 現在、使える手はすべて使い、八方手をつくして調べさせております。円卓会議を通じて英国情報部、国家公安にも調査協力を頼み、大英博物館の未整理文書庫まで あさらせて調査中なのですが・・・見るべき情報は皆無です。今の所は やはり本来の意味しかわかりません。
インテグラ 本来の・・・意味とは?
ウォルター は、10世紀間という意味しか。
インテグラ いや、もう1つある。
ウォルター は?
インテグラ 千年の王国の栄光を求め、全世界を相手に闘争を始めた集団が、半世紀前に。・・・ヒトラードイツ ナチス第三帝国。・・・調査を続けろ、どんな小さな事も見逃すな!
ウォルター 了解いたしました お嬢様。ああそれと人員補充の件ですが、英国部隊からの引き抜きが不可能です。
インテグラ 何故だ。
ウォルター 人数が多すぎるのです。あまりにも不自然です。故に・・・プロの傭兵を雇い入れました。
インテグラ 傭兵?信頼できるのか?金で動く連中だぞ。
20 ウォルター はい、ただの傭兵ではなく、プロフェッショナルですから。契約と金が「払われているかぎり」、連中は決して裏切りません。・・・それより お嬢様。
インテグラ なんだ。
ウォルター こんなモノが送られてまいりました。
インテグラ 手紙・・・?
ウォルター 差し出し人を ごらんください。
インテグラ !・・・ヴァチカン特務局第13課イスカリオテ機関だと!?
ウォルター はい。
マクスウェル
(手紙の内容)
ヘルシング団長 インテグラ・ウインゲーツヘルシング殿
初秋の心地よい季節の中、一緒に美術館巡りでも いかが?
10日 午後3時に以下の場所にて お待ちしております。
ヴァチカン特務局第13課イスカリオテ機関長エンリコ・マクスウェル
ナレーション ヘルシング ロンドン本部襲撃事件より一週間後、9月10日
ロンドン 王立軍事博物館
キャスター作「マモン平原会戦のウスター伯ヴィランデル図」前
インテグラ ・・・今 何時(なんどき)だウォルター。
30 ウォルター は、今 3時を回った所ですな。
インテグラ ・・・向こうから誘っておいて遅れるとはな。まさかとは思うが、私達を おびき寄せるための罠だったのかもしれない。
ウォルター いえ、いくら連中でも真っ昼間に公衆の面前、しかも敵地のド真ん中で事を起こすとは思いません。
マクスウェル やあーどうもどうも、お待たせしちゃったみたいで・・・
インテグラ それ以上近付くな。ヴァチカンが一体なんの用だ、しかも無く子も黙る皆殺し機関のイスカリオテが!
マクスウェル あぁこれはいけない、随分と嫌われたものですなあ。
まずはご挨拶を、イスカリオテの長(おさ)をやっておりますマクスウェルと申します 以後よろしく。
インテグラ 用件はなんだ!自己紹介など無意味だ!
マクスウェル まあまあ そう目くじらを立てずに、今日は別に君達と争いに来た訳じゃないんだ。
インテグラ 信じられるか!!おまえ達は重大な協定違反を犯して北アイルランド ベイドリックに機関員(エージェント)アンデルセンを派遣し、我々の機関員を攻撃し2名を殺害した!!この私ですら殺される一歩手前だった!忘れたとはいわさない!!
マクスウェル それがどうした。
40 インテグラ !・・・なんだと!?
マクスウェル こちらが したて に出ていれば調子にのりやがる。おまえ達のクソ雑巾どもが2人死のうが2兆人死のうが知ったことか、法王猊下直々の ご命令でなければ薄汚い貴様らなどと話などするか、グダグダぬかさずに話しを聞け、異端教徒(プロテスタント)のメス豚共。
アーカード メス豚?さすがは泣く子も黙る第13課、言う事が違う。
四方の諸族を統治して平和を与え法をしき、まつろう民は寛容を逆らう者は打ち倒す。
何も変わらんね、2000年前から おまえらローマは何も変わらん。
マクスウェル 吸血鬼アーカード、ヘルシングのゴミ処理屋!殺しの鬼札(ジョーカー)!
生で見るのは初めてだ、はじめまして「アーカード君」。
アーカード はじめまして「マクスウェル」そして さようならだ。
貴様は私の主をメス豚と呼んだ。おまえ、生きて英国(ここ)から帰れると思うなよ、ぶち殺すぞ人間(ヒューマン)!
マクスウェル おお恐ろしい恐ろしい、あんなに恐ろしいボディガードに銃をつきつけられては話も出来んな。
何度も言うが、我々は話をするために ここまで来たのだ。しかし そちらが そうするなら こちらも こうしよう、拮抗状態を作るとしよう・・・アンデルセン!!
ナレーション マクスウェルの呼び声と共に、アンデルセンが現れ銃剣(バヨネット)を抜いた。
アンデルセン 我に求めよ、されば汝に諸々の国を嗣行(しぎょう)として与え、地の全てを汝の物として与えん。汝、黒鉄の杖をもて、彼等を打ち破り陶工の器物の如くに打ち砕かん、されば汝ら諸々の王よ
マクスウェル い、いかん!よせアンデルセン!
アンデルセン 一撃で何もかも一切合切決着する、眼前に敵を放置して何がイスカリオテか!?何がヴェチカンか!?
50 マクスウェル 対峙するだけで良いのだ!止まれ!
奴め おまえ達を見て 自制が きいていない、ここは一旦引いてくれ!後でもう一度改めて・・・!!
アーカード クククッククククク、さあ!殺ろうぜユダの司祭。
アンデルセン ハアァハハハハハァ、この前の様には いかないぞ吸血鬼。
マクスウェル いっ、いかん!!
インテグラ やめろアーカード!命令(オーダー)だ!
ナレーション 一触即発の危機を回避したのは、マクスウェルの制止でも、インテグラの命令(オーダー)でもなく、扉を開けて現れたセラスだった。
セラス はーい博物館見学ツアーの皆様〜っ♪こちらが絵のホールですよ〜♪はーいニポンのみなチン、こっちデスヨ〜♪
え?なんで神父さんが刀を持ってるのか、ですか?それはですね〜・・・え〜っと、前衛芸術ですよ!うんうん♪
え?この鉄砲?そ、それはですね、え?おじいさんが満州にいたときは、こんな でっかい鉄砲は無かった?そうでしょうねえ〜ウフフ〜♪
アンデルセン ・・・アーカード。
アーカード ・・・なんだ。
アンデルセン 興がそがれた。
60 アーカード 闘争の空気ではないな。
・・・帰って寝る。
インテグラ なっ!
ウォルター 護衛は?
アーカード アンデルセン抜きならばウォルター老だけで十分すぎる。昼間に起きたので眠い。
セラス はいはいみなさーん、これがですネ〜キャスターさん作の「マモン平原会戦のウスター伯ヴィランデル図」でしてね〜♪
アンデルセン 先にローマに帰ります。
マクスウェル そうか。
アンデルセン 良い博物館だ、次は孤児院の子供達を連れて来ましょう。
マクスウェル 了解した。
アンデルセン ・・・次は殺す、必ず殺す。
70 マクスウェル ・・・フウ、ここでは話がしづらい、外のカフェテリアで話さないか?
インテグラ ん?
マクスウェル 何度も言うようだが、私は話をしに ここまで来たのだ。
インテグラ ・・・よかろう、お互い大変な部下を持って苦労するな。
ええ?「オス豚」?
マクスウェル ・・・さっきのお返しか、まぁいい、我慢しましょう!
ウォルター うまくいきましたな!
セラス ありがとうございます!
ナレーション マクスウェルとインテグラはカフェテリアのテーブルで対峙し話し始める。
マクスウェル 君らの状況は知っている、組織化されたグール達の攻撃を受け破滅寸前におちいった事、そして ある言葉を頼りに必死の調査をしているという事も。・・・そしてそれが実を結んでいない事も。
インテグラ さすがだな、その通りだ。
80 マクスウェル 「ミレニアム」・・・だろう?
これはいわゆる特秘事項という奴だが、我々は「ミレニアム」という名の一つの情報を持っている。
教えてほしい?本当に?教えてほしいか?本当に?本当に?
インテグラ 何がいいたい。
マクスウェル 我々が貴様ら国教徒共(プロテスタント)共にこうして力を貸してやろうなんてのは本来ありえない事だ。これも以前のベイドリックでの協定違反の借りを返したいと思っているからだ、そこらへんを理解してほしいね。
インテグラ ・・・わかった。・・・了解しよう。
マクスウェル だがそれだけでは教えてやれんね。
ウォルター なに?
マクスウェル 人に物を たずねる時には大事な言葉があるだろう、「お願いします」が!
ウォルター 貴様、聞いておれば つけあがりおって!
インテグラ ウォルター!!
・・・一言だけでヴェチカンが特秘事項を もらそうというのだ、悪い取り引きではない。それに今は四の五のいってられる状態ではない、つかめる物なら葦(あし)でも藁(わら)でもつかもう。
ウォルター お嬢様・・・。
90 インテグラ ・・・「お願いします」、どんな小さな事でも かまわない、教えてもらえまいか、ローマカトリック ヴァチカン法皇庁特務第13課イスカリオテ機関長 マクスウェル局長殿。
マクスウェル OK!OK!英国国教騎士団「ヘルシング」局長 サー・インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲート・ヘルシング殿。
今を遡(さかのぼ)る事50年前、第二次世界大戦の事だ、敗戦したナチスドイツから大量のナチの軍人達が国外に逃亡した。
ババリア戦友会、スパイダー、ヘルパーズゲイツ、ブラザー・クロイツ、NAHID、オデッサ等といったナチ戦争犯罪人を救援する組織や国外ドイツ人が その逃亡の手助けをした。主な逃亡先は親ドイツ国家郡の多い南米。
インテグラ それが一体なんの関係がある?ちょっとした戦争マニアなら知っていそうな話だ。
マクスウェル 彼らは全てドイツ敗戦の直前か直後から行動を開始している、それはそうだ、戦争途中で逃亡などしたら脱走だそれは。我々が知っている「ミレニアム」とは計画名、そして部隊名だ。ナチスの極秘物資人員移送計画と その実行者達だ。
彼等「ミレニアム」は戦争初期段階から堂々と行動を始め、ドイツ占領地を駈けずり回って書類を改ざんしながら膨大な物資と有望な人材を集めて回り、南米に移送したのだ、ユダヤ人資産・美術品・貴金属・外貨・有価証券、エトセトラ、エトセトラ、小さな物は金歯から、大きな物は潜水艦まで。
・・・なんで知ってるかって顔だね。・・・手助けしたのさ我々が、強力にね。
ナレーション ヘルシング本部 広場では傭兵部隊「ギース」がセラスの指揮の下、発砲訓練をしている。その光景を2階の窓から見下ろすウォルターに壁をすり抜け現れたアーカードが話しかけた。
アーカード ずいぶん遅くまで起きているのだなウォルター。
ウォルター ふふ・・・外があの調子だからな。インテグラはもう寝たのかね?
アーカード 先程お休みになられた。
ウォルター ・・・聞いたかね?
アーカード ああ聞いた。
100 ウォルター まさかナチスがらみとはな・・・半世紀も前の亡霊の名が出てくるとは・・・
アーカード ハン、そうかね 私は なんとはなしにそんな感じがしていたよ。あの感じ、あの薄暗さは前にも感じたことがある。
ウォルター ほう、何故だ?
アーカード 何故?お前が何故と?「アンデッド」を実戦に投入しようなどと考えたのは後にも先にも三つだけ。一つは君ら、一つは彼ら、一つは私。そして彼らのアンデッド研究機関は50年前に完全に粉砕された。この私とお前とで皆殺しにしたんじゃないか。
ウォルター ・・・そうだ。そうだったな。思い出したよアーカード。
アーカード 「老い」とは恐ろしい、これだから。
ウォルター ふん・・・「老い」すら楽しむものさ、我々 英国人は。アーカード、君らにはすぐにでも南米に飛んでもらうことになるだろう。ヴァチカンの13課の連中を全面的信用する訳ではないが情報量が少なすぎて取り得る手段がないのだ。南米にナチの残党が隠れて再興を狙っているなんて話はよく聞くゴシップだが、これだけの事をする組織だ。しかもここまで秘密を守っている組織だ。生半可な連中ではない事だけは確かだ。しかし ここまで あからさまにケンカを売られて黙ってやられているほど我々はお人よしではない。
アーカード ハン、これだから英国人は そんなだから衰退するのだ。
ウォルター 意地も張れぬ繁栄など こちらから願い下げだ。要員はアーカード及びセラスの二名、あとは数名の外で訓練中の新人という所か?
アーカード 連れて行くだけ足手まといだ。連絡員としてだけでいいだろう。
110 ウォルター なに 連中なかなかどうして よくやっている様だよ。少し教官に不安があるがね。・・・そういえば一度聞きたかったのだが。
アーカード なんだ
ウォルター 何故彼女を吸血鬼に?アーカードともあろう男が何故にそんな柄にもない事を?
アーカード ・・・さあな、何故なのだろうな。気まぐれ?否 違うね 奴は自ら道程を自分の意志で取捨決定をした。あいつはどんな扱いになっている?
ウォルター 「ベイドリック」事件で行方不明になったという事になっている。
アーカード 家族は何もいってこないのかね?
ウォルター 家族は・・・いない 孤児だ。
アーカード ふふ・・・そうだろう、まあそんな所だろうさ あいつは見かけや表面上なんぞより ずいぶんと面白い女だ。最初期出動から上官や同僚が次々とグールと化し全滅していく死の村落。自分をレイプして殺そうとする吸血鬼たち、まるで魔女の釜の底のような地獄。そこであの女は何をし何を選択したのか?「あきらめ」が人を殺す。あきらめを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となるのだ。
ウォルター ・・・・ふッ、あとは血液さえ飲んでくれれば・・・か?
アーカード ・・・飲むさ 飲むとも 必ず 飲む。
120 ウォルター ところで、吸血鬼は流れる川や海を踏破する事が出来ないはずだな。セラスをどうやって南米につれていくつもりだ?
アーカード あいつはまだ姿見では海を渡る事は出来ない。
ウォルター やはりまだ無理か・・・飛行機でも無理かね?
アーカード 無理だね。半人・半吸血鬼の様なものだ、ひとたまりもあるまい。「ちりは・・・ちりに帰る」
ウォルター ふむ・・・どうしたものかな。
アーカード クラシックだが、良い手がある。
ナレーション ヘルシング本部 翌朝 インテグラとウォルターが廊下を歩いている。
インテグラ 難儀な奴だな。で、セラスはどうやって運ぶ事になったんだ?
ウォルター はッ、その件ですが・・・結局、アーカードの柩に入れて運ぶことになりました。
インテグラ 柩?・・・大丈夫なのだろうな。
130 アーカード おはようインテグラ。
インテグラ スーツ姿か、いつものかっこうではないのだな。直射日光は吸血鬼の大敵ではないのか?
アーカード あの格好で飛行機に乗る訳にもいくまい、相手に宣伝しながら歩いている様なものだ。それに、私にとって日の光は大敵ではない、大嫌いなだけだ。
インテグラ ・・・命令は唯ひとつ「サーチ アンド デストロイ」以上。
アーカード 認識した 我が主。
ナレーション 南米ブラジル 首都リオデジャネイロ ホテル「リオ」
最上階のスイートルームにアーカードが居る。アーカードは運びこんだ柩を開けると中で眠っていたセラスに声をかけた。
アーカード 起きろ。
セラス !お、おは、おはようございます。
アーカード 起きろ、面白いから早く起きろ。
ナレーション ホテルの周囲を無数のヘリコプターや装甲車、そして報道の車が取り囲んでいた。
140 セラス なっ、なんの有り様ですかコレ・・・?なっ、なっ、一体・・・これは一体!
アーカード さあ、戦争の時間だ。
ナレーション ロンドン ヘルシング本部 電話の対応に追われているウォルターの横でインテグラが歯噛みしながらTV放送を見ている。
ウォルター はっ、ペンウッド卿、その事に関しましては少々お待ち下さい。はい、これはこれはアイランズ卿、はっ、その件でございますな。はい只今彼らと連絡をつけるべく行動は始めておりますが、はい。はい、その様なことは無いとは思いますが・・・はい、はっ、その通りでございます。はっ、おっしゃる通りでございますが はいっ。はっ、はいっ、私共におまかせ下さい、はっ、それでは。
インテグラ 上等じゃないか。そんなに戦争がやりたいなら やってやる 戦争屋共め。
ウォルター TVクルーがホテルを写さなくなりました。
インテグラ 突入する気か、馬鹿どもめ。正気とは思えない。アーカードは、あいつはどうするつもりだろう?
ウォルター 彼にとっては目的達成の至上命令の単なる障害物でしかありません。闘う意志で彼の前に立つ者を彼がどうするか おわかりでしょう?
インテグラ それが人間だったとしてもか?ただの人間だったとしてもか?
ウォルター お忘れですか お嬢様。彼は正真正銘の化物なのですよ。!また電話ですなあ・・・!。直通回線・・・もしや・・・
150 インテグラ 誰だ 敵か 味方か。
アーカード おまえの従僕だインテグラ 命令を 命令をよこせ、我が主。
インテグラ アーカード、状況を、状況を説明しろ。
アーカード 我々がここに到着した直後、ホテルは攻囲されこの有り様だ。奴らの手は思ったより長い様だな。こちらの手が読まれてる。ついさっき特殊警察一個分隊の突入を受けた。
インテグラ それで・・・どうした。
アーカード 殺したよ 殲滅した 唯の一人も残さずに。さあインテグラ、命令をよこせ。警官隊の上層部は「奴ら」に支配されているのだろう だが、攻囲し命令を実行している連中・・・我が殺しこれから殺そうとする連中は、ただの、普通の、何もわからぬ連中だ。私は殺せる、微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く鏖殺(おうさつ)できる。この私は化物だからだ。ではおまえは?インテグラ。銃は私が構えよう、照準も私が定めよう。弾を弾装に入れ遊底を引き安全装置も私が外そう。だが・・・殺すのは おまえの殺意だ。さあどうする、命令を!ヘルシング局長 インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング!
インテグラ ・・・ウォルター。
ウォルター !はッ。
インテグラ 葉巻を。
ウォルター は、ただ今。・・・どうぞ。
160 ナレーション インテグラは葉巻を咥えた。葉巻が小刻みに震えている。インテグラは眼を閉じる。・・・しばらくしてゆっくりと開かれた眼光は鋭さを取り戻していた。インテグラは翳した手を振り下ろし机を叩きながら叫んだ。
インテグラ 私をなめるな従僕!私は命令を下したぞ、何も変わらない!「サーチ アンド デストロイ」!「サーチ アンド デストロイ」だ!我々の邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰せ!逃げも隠れもせず正面玄関から打って出ろ!全ての障害は ただ進み 押し潰し 粉砕しろ!
アーカード ・・・はッ、ははッ、ははは はは ははははッ、了解。そうだ、それが最後の いちじくの葉だ。なんとも素晴らしい!股ぐらが いきり立つ!インテグラ!!ならば私は打ってでるぞ、とっくりとごらんあれヘルシング卿。
インテグラ 【電話切れる】

・・・私の、私の判断は正しいのか、誤っているのか、ウォルター。
ウォルター 正誤の判断など・・・ただ、私は執事でございますれば、私の仕えるべき主君はここにおられます。それでは お茶でも お入れしましょうか?シロルの素晴らしい特級葉がございます。
ナレーション 再び ホテル「リオ」 最上階スイートルーム
アーカード 準備しろ、脱出するぞ。
セラス あの・・・その・・・
アーカード どうした、グズグズするな。
セラス いや、あの・・・マ・・・マスター・・・あの・・・かっ・・・彼ら・・・人間です・・・
170 アーカード ・・・だからなんだ。
セラス にッ、人間なんですよ!
アーカード だからなんだ、だからなんだ!ドラキュリーナ!鉄火を以って戦争を始める者に人間も非人間もあるものか 彼らは来た!殺し 打ち倒し 朽ち果てさせるために 殺されに 打ち倒されに 朽ち果たされるために それが全て!全てだ!闘争の契約だ!彼らは自らの弱いカードに自らの全てをかけた!そういう事だ!殺さなければならない!それを違える事は出来ない 誰にも出来ない唯一つの理だ 神も悪魔も私も おまえも。
セラス でも・・・あの・・・その・・・
アーカード ・・・いや・・・それだ、それこそが・・・。行くぞセラス。せいぜいうす暗がりを おっかなびっくり連いて来い。
セラス はッ、はッ、はいッ!
アーカード お前は柩を屋上に運び、ヘリを奪って脱出しろ。
セラス !ヘッ、ヘリを奪取ですか?どっ、どーやってですか?
アーカード なんとかしろ。
セラス あの・・・その・・・いや、なんでもないです、なんとかします。でもマスターは?どうする気ですか?
180 アーカード チェックアウトをしなければな。正面玄関から歩いて出る。高見の見物をしている奴らに教育する。自分がどんな相手に喧嘩を吹っかけたのかという事を。
ナレーション スイートルームの扉が開き、完全武装の警官隊が雪崩れこんだ。一斉に発射された銃弾がアーカードの体を砕き飛ばす。銃声が途絶えた時、肉塊となったアーカードの血が床を染めていた。死亡を確認する警官隊。次の瞬間、警官隊の表情が凍りつく。脳髄を撒き散らし肉塊となったはずのアーカードの口が、声を発したのだ。
アーカード 狗(いぬ)め・・・なるほどたいした威力だ。しかし狗では私は倒せない。狗では私は殺せない。
ナレーション アーカードの体から噴出した黒き闇が砕け果てたはずの体を構築していく。
アーカード 化物を倒すのは、いつだって人間だ。
ナレーション アーカードの牙が警官の首筋を貪り血を吸い尽くす。素手で次々と警官隊を千切り殺すアーカードに恐怖した警官が部屋の出口に向かって逃げ出す。開いていた筈の扉が突然閉まった。
アーカード 開かない。
ナレーション 警官は恐怖に全身を震わせながらアーカードに向けて叫んだ!「化物!」と。
アーカード よく言われる。それと対峙したお前は何だ?人か?狗か?化物か?
ナレーション 恐怖に堪えられなくなった警官は、銃口を自らのコメカミに当て引き金を引いた。アーカードの表情が曇る。
アーカードは扉を開き、完全武装の警官隊が銃器を構えている廊下を悠然と両手に銃を携えながら闊歩して行く。その凄絶なる威圧感に呆然自失となっていた警官の一人が堰を切って引き金を引こうとする。だがアーカードの銃がそれより早く火を噴いた。吹き飛ばされる警官。他の警官隊も悪夢から目覚めたかのように発砲するが、アーカードの相手にはならなかった。自らの命の危機を戦慄と共に感じた警官隊が一斉にエレベーターに向け逃げ惑う。それをアーカードが、アーカードの放つ銃弾が追い、駆逐していく。次々とエレベーターに雪崩れ込む警官たち、アーカードが迫る。エレベーターの扉が閉まる瞬間、アーカードの手が扉にかかり、ゆっくりと開かれていく。
190 アーカード ・・・兵士諸君、任務御苦労・・・サヨウナラ。
ナレーション アーカードの銃が火を噴く、火を噴く、火を噴く。・・・いつしか無数の警官隊の亡骸とアーカードを乗せたエレベーターは地上1階についていた。扉が開き、フロントを抜け、正面玄関から外に出る。ホテルの周囲を警官隊、報道陣、そして野次馬たちが取り巻いている。アーカードは微笑みを浮かべ手招きをした。
アーカード さあ出て来いよ。前菜の喰い散らかすのには もう飽きた。それとも皆んな死んで真っ平らになるのか?
ナレーション 静まり返った群衆の中から一人の男が歩み出た。三揃いの高級スーツに身を包んだペルシア的な風貌の紳士である。男はアーカードの前に立った。
トバルカイン いやはや全くもってお見事な食事ぶり さすがはさすがは かの ご高名なアーカード氏でありますなぁ。私の名前はトバルカインアルハンブラ 近しい者からは「伊達男」と呼ばれています。
アーカード お前が あの哀れな連中を差し向けたのか?
トバルカイン ああ、あの かわいそうな連中か。馬鹿な上官を持ったが故にあのザマだ。連中 部下が皆殺しになっても欲しいのだ。永遠の命ってのがね。
アーカード 救えぬ馬鹿共だ。永遠なぞというものは この世には存在しない。
トバルカイン そんな哀れな連中でも私のわずかに役に立った。御自慢の特製弾丸はあと何発かなアーカード君。
アーカード 能書きはいい で どうする「伊達男」
200 トバルカイン 君の命は我々が「もらう」。君は我々の取るに足らない資料の一つとして列挙される時が来た。・・・「ミレニアム」によって。
アーカード !・・・成る程 成る程、そうか、全く以ってどうしようもない連中だ。お前たちだったのか。ならばこの私が相手してやらねばいけないのは全く自然だ。一度滅ぼされた位では何もわからんか。
ナレーション トバルカインのスーツの裾から硬質のトランプが無尽蔵に溢れ出しアーカード目掛け飛んで行く。同じくしてアーカードの銃が火を噴く。互いに相手の攻撃を避けながらの攻防が続く。行く手を失ったトランプと銃弾が群集を血だるまにしていく。アーカードの銃弾がトバルカインを仕留めた!と思った刹那、トバルカインの姿が無数のトランプに変わる。
トバルカイン かかった!
ナレーション 後方から放たれたトバルカインのトランプがアーカードを斬り裂く。アーカードは血を噴き出しながら大地を蹴りホテルの屋上に向け飛び去る。
トバルカイン 逃がしはせん。はははははは、吸血鬼アーカード なんのこともあらん!
アーカード 血が止まらない ただのトランプでも能力でもない様だな。面白いぞ面白い。あいつらだ あいつらだ ひどく面白いぞ。
トバルカイン 準備はいいですかね アーカード君。故郷に帰りたまえ うるわしの地獄の底へ。
アーカード ふっふはは くはははははッ。
トバルカイン 何がおかしい?
210 アーカード とても嬉しい。未だおまえ達の様な恐るべき馬鹿共が存在していただなんてな。「ミレニアム」「最後の大隊」 そうか、あの狂った「少佐」に率いられた人でなし共の戦闘団。まだまだ世界は狂気に満ちている。さあ行くぞ、歌い踊れ伊達男、豚の様な悲鳴をあげろ。
トバルカイン 悲鳴をあげる?この私が?まだわからないのか おめでたいねアーカード君。脳みそまですっかりと おめでたくなったんですかぁ ねえッッ!
ナレーション トバルカインのトランプが飛ぶ。アーカードの体が闇に変わる。トランプはアーカードをすり抜け屋上の建物を斬り裂き廃墟へと変える。
トバルカイン また逃げかね?無駄な・・・
ナレーション 廃墟から銃器を携えたセラスが現れた。
セラス らああああ!
トバルカイン この小娘え!なめるなあ!
ナレーション セラスの放った煙幕弾がトバルカインの視界を塞ぐ。
トバルカイン ぐっ!しゃらくさい真似を!
ナレーション トバルカインの周囲にアーカードの影が幾つも現れる。トランプを放ち続けるトバルカイン。だが、それは全てアーカードの放つ黒き影。アーカードの本体はトバルカインの真後ろにあった。
220 アーカード 悲鳴をあげろ 豚の様な。
トバルカイン うおおお!
ナレーション 振り向き様にトランプを放とうとするトバルカインの両手足をアーカードの銃が打ちぬく。崩れ行くトバルカインの体をアーカードが受け止めた。
アーカード チェックメイトだトバルカイン。さあ私との約束を果たしてくれ。私の使命を果たさせてくれ。洗いざらい喋ってもらおう、お前の命に。
ナレーション アーカードの牙がトバルカインの首筋に突き立つ!血を、命を、そして記憶すらもアーカードは吸い尽くしていく。
アーカード 敵を殺し味方を殺し守るべき民も納めるべき国も自分までも殺してもまだ足りぬ。俺もお前らも全く以って度し難い戦争狂だな「少佐」。