からくりの君
01 ナレーション むかあし むかあし・・・たくさんの大名が互いに戦い・・・おのれの領地を広げようとした戦国の世じゃ。
これは、毛利元就や北条早雲のように、大きな戦をし、幾つもの国を支配した君主のお話ではない。
もっとへんぴな土地での、もっとずうっと小さな、君主の物語じゃよ。
ほれ、あそこに見えるじゃろ。

【山道を身の丈以上ある行李を背負って歩く姫様がつまづくのを見ながら】

ああっ、つまずいた!おっとっと!・・・ほっ。
とにかく顔立ち卑しくなき姫様が、大きな行李(こうり)をしょって山道を行くのじゃ。

こちらはそこから程ない山の中、忍者達が怪しい者達に追われておった。その怪しき者は忍者の放つ手裏剣が刺さっても何事もなかったように動いておった。忍者達は瞬く間に斬り捨てられた・・・一人の忍者を除いてのう。

山奥のまた奥に、とある一軒家があった。一軒家というにはおこがましいボロ屋じゃな。そこに、さっきの身の丈以上もある行李をしょった姫様が尋ねたんじゃ。姫様は戸口で、か細い声をあげた。
蘭菊 もし・・・失礼いたします・・・昨年、狩又貞義の軍勢により滅ぼされた、文渡久重(あやわたりひさしげ)が末娘、蘭菊にございます。こちらは当代随一の忍びにして、幻術(めくらまし)の達人、加当様のお住まいだと聞いて参りました。加当様・・・どうかお力をお貸しください。
睚 弥三郎 バーカ!忍びの名手が手前の家を他人に教えるかよ。
蘭菊 あっ。驚いた・・・そなたは・・・?
睚 弥三郎
(まなじり やさぶろう)
ただのドジじゃ・・・お姫さん。あんたも相当なもんだけどな。だいたいここは狩又貞義の城の近くだぜ。敵の領地で身分明かすかね!ぶっ殺されるぞ。
蘭菊 気がつきませなんだ、御指南ありがとうございます。
睚 弥三郎
(心の声)
【素直に頭をさげる姫様に拍子抜けしながら】

何だこの女・・・
睚 弥三郎 早く行っちまいな。やべえ奴らに追われてるんじゃ。そいつらはあんたにとってもヤバイ奴らよ、行っちまえ!加当なら死んだぞ!幻術(めくらまし)の加当とか、身軽な鳶加当とか言われてたらしいが、あんまりスゴ腕すぎて、売り込みに行った先の武田信玄に殺されちまったよ。
蘭菊 そ・・・そうでしたか・・・
10 睚 弥三郎 !ちっ、もう来たか!
ナレーション 睚(まなじり)と姫様の前に先程忍者達を斬り捨てた怪しき者達が連なっておった。頭と思われる忍者は人の顔を成しておるが、他のものは明らかに人ではない。
死なずの忍び頭 「流れ忍び」・・・はした金で様々な君主に仕え、その手先となる下忍めが!よりによって我が狩又の城に忍ぶとは運が悪い・・・言え、誰に雇われた?
睚 弥三郎 けっ、忍びがそれを言えるかよ!どっちにしても、狩又の城を落としてえ大名はたくさんいるってこった!それに・・・そいつら「死なずの忍び」の秘密を知りたい奴らもな!
ナレーション 一触即発の緊張感が漂っておった。だがな、なんとその場に、あの姫様が進み出たのじゃ。
睚 弥三郎 え!?おっおい、何をするのじゃ!
死なずの忍び頭 おまえは・・・何じゃ?
蘭菊 お帰りになりましたら、狩又貞義様にお伝えくださいまし。姫がいずれ人形を、返していただきに参りますと。
死なずの忍び頭 姫・・・?おぬし、まさか文渡(あやわたり)の・・・!逃がすな!下忍を殺せ!
ナレーション 忍頭の命令と同時に、「死なずの忍び」全てが、睚めがけ飛んだのじゃ、逃げ切れるわけがない。じゃがの、とんでもない助っ人が、現れたのじゃよ。
20 死なずの忍び頭 何ぃ〜っ?行李から鎧武者の手が!?
ナレーション 姫様は袋の中から木の枠を取り出した。枠の中に糸で張り巡らされた指輪を両手足全部の指にはめると、地面に腰を下ろし糸を引きながら名前を叫んだんじゃ。
蘭菊 太郎丸!!
ナレーション するとどうじゃろう、行李の中から刀をたずさえた鎧武者が現れおった。その鎧武者の強いこと強いこと!瞬く間に「死なずの忍び」を両断していったのじゃ。
睚 弥三郎 糸!?すごく細い糸で、あの武者を動かしているのか?・・・からくり!
死なずの忍び頭 そうか・・・わかったぞ・・・去年、殿が人形集めだけがとりえの、文渡久重の城を落とした時、久重自慢の人形数対と・・・死体の数が一つ足りなかったと聞く!末姫、蘭菊のがな!
ちいっ!このことは貞義様に報告せねばなぁ!下忍、次は殺してくれるぞ!
睚 弥三郎 睚 弥三郎だ、覚えとけ!
・・・ふう。
蘭菊 お強いのですね・・・
睚 弥三郎 あのなぁ、どこからそんなコトバが出るんじゃ、俺が助けられたんじゃろが!
蘭菊 いいえ、そなたが彼らの気を引いてくださらねば、私は太郎丸を操れませなんだ。
30 睚 弥三郎 どういうことだ?
蘭菊 この行李の中に、折りたたまれている人形達は私の操りによって強い力を出しますが、操り糸を扱う私はその間・・・完全に無防備になってしまうのです。
睚 弥三郎 ふん・・・そうか、人形は強くても、操ってる おまえさんを殺すのは簡単か。
な・・・なんでえ姫さん、いきなり土下座なんか・・・
蘭菊 そこで そなたに お願いがございます。これより狩又貞義の城に討ち入る私を、護ってはいただけぬでしょうか?むなじり・・・や・・・やそすけ様!
睚 弥三郎 睚 弥三郎じゃ!仇討ちか!やめとけ!
ナレーション 姫様は雇い賃にと、手持ちの袋に入っていた金品を地面にぶちまけた。ゴトンッ!という大〜きな音がしてのお、金の延べ棒が転がっておった。睚は口を あんぐりあけとった。
蘭菊 私はよくわかりませぬが、私の持っている全てのお金です。私に雇われてはくれませぬか?めなじり様。
ナレーション なんやかんやで夜となり、睚と姫様は洞穴に暖をとった。
睚 弥三郎 ふーん、乳母がおまえさんを・・・
蘭菊 はい、私を燃える城から連れ出してくれ、先程のお金も・・・今まで、その乳母の里に隠れておりましたが、先月 亡くなりました。
40 睚 弥三郎 そして、狩又貞義を倒すのにゃ、忍びの名人を雇えと教えたか・・・
蘭菊 はい・・・
睚 弥三郎 でも何で直接 奴を狙うのじゃ?お家を興(おこ)すのならまず、血縁の城主を頼るのが筋じゃろう?仇討ちにしても強引すぎやしねえか?・・・何でだ?
蘭菊 ・・・それは・・・聞かないでくださいませ。
睚 弥三郎 ・・・ま、いいぜ。こっちも お姫さんに雇われるかどうか、思案中だしな。
蘭菊 まなじる様!加当様の居らぬ今、もうあなたしか頼れません。どうぞ・・・
睚 弥三郎 うーむ、いかにしようか・・・
蘭菊 どうぞ。
睚 弥三郎 うるせえな!思案させろ!それに俺の名前は まなじりじゃ!
蘭菊 す、すみませぬ。
50 睚 弥三郎 どこへ行く?
蘭菊 近くに滝がありましたので、明日の討ち入りのため、身を清めて参ります。
睚 弥三郎 そうか・・・暗いから・・・!・・・と言ってるそばから転んでやがる。・・・へんな姫さんじゃな。人形も金もみんな置いて行っちまった・・・俺が持って逃げたらどうすんじゃ?さあてどうしたもんか・・・狩又の城に行った奴らは全滅・・・戻って報告しても、下忍に入るのは、酒代にもならん びた銭・・・それよりはこの仕事を・・・でも、あんな「死なずの忍び」を相手にするのは御免じゃな・・・
!くっ、俺ともあろうもんが真面目に考えちまった。金だけもらって適当につきあってヤバくなりゃ逃げりゃいいんじゃ。
・・・ちっ。馬鹿な箱入り姫じゃ。
蘭菊 めなじる様。
睚 弥三郎 睚じゃ!お姫さんは、明日討ち入っておそらく命はないじゃろう。それではあまりにもったいない!花の咲こうという時季にな。よって抱かせていただくぜ!騒ぐなよ!!我ら下忍には おまえのような女を、自分のものにする機会なぞないのじゃ!どうしても言うことを・・・聞かせ・・・る・・・ぜ・・・と。
何じゃ・・・抵抗せんのか?
蘭菊 何のことかはよく知りませぬが、したいことがあれば、どうぞなさってください。私は助けてもらうために支払うものは、もう何も持ってはおりなせぬゆえ・・・ただ・・・
私のこの身を醜いと・・・思わなければ。
ナレーション 蘭菊は睚に背を向けた、月明かりに照らされた蘭菊の背中には消すこと適わぬ生々しい傷跡が、右肩から左の尻までも続いておった。
睚 弥三郎 その・・・傷は・・・
蘭菊 ・・・父は・・・人形が好きでした。
父・・・文渡久重が治めた国は山々に囲まれ、水に恵まれた豊かな国・・・方々で城が燃え、国に新しい城主が生まれる今の世で、他国から攻めにくい地形により、我が領地は長く平和でありました。そのせいか父は政(まつりごと)にうとく・・・己の楽しみに日々を暮らしておりました。
からくり人形!遠く「明」(みん)の国から偃師(えんし)なる人形作りの偉人のしるした書を手に入れ・・・「いずぱにや」「ぽるとがる」などから「時計」というものを取り寄せ、研究し・・・父は様々な操り人形を作り出しました。人の数倍も早く動き強い力を持つ操り人形を・・・そして父は己の最高傑作の人形を生み出しました。自分で動く・・・からくり人形・・・
睚 弥三郎 それと・・・あんたの傷が何か関係あるのか?
60 蘭菊 まなじろ様、からくり人形は何で動くか御存知ですか?
睚 弥三郎 いや・・・
蘭菊 人形は普通、真ちゅう性の弦や鯨のヒゲによるバネによりて動きます。でも・・・父の人形は違いました。
私は当時 五つ・・・私は幼児にして、父親に背中の生皮をはがされました。
睚 弥三郎 それじゃ・・・からくりのバネってのは・・・
蘭菊 はい・・・!父の作った生き人形のバネは・・・子供の生皮です。
昨年、守りの油断をついて狩又貞義が、我が城を落とした時・・・
狩又貞義
(蘭菊の回想)
これが文渡貞義の作った生き人形か!?ふははは・・・なるほど!太刀筋、早さ・・・人形とは思えぬほど、ようできておる。はははは!これじゃ!これが欲しかったのじゃ!これと同じものを作れば、無敵の兵ができるわ!!天下はわしのものじゃ!この狩又貞義のな!
睚 弥三郎 文渡を滅ぼした後、狩又が急に、得体の知れぬ忍びを使って、戦に勝ち続けたのは・・・
蘭菊 おそらく・・・あの人形を調べ・・・同じものを作ったに違いありません。
私は・・・文渡の家のためにでも・・・父の仇を討つためにでも・・・戦うのではありません。
私は・・・私の皮を使って動く・・・あの人形がいやなのです。
一度は逃がれたとはいえ、処世にうとい私は・・・やがて狩又に捕らえられ殺されるでしょう。でも・・・私の皮は・・・あの人形だけはこの世に残して逝きたくないのです。
睚 弥三郎 ここに来る時にあれを見たのか・・・
蘭菊 ・・・はい・・・からくり人形のバネにする生皮をはぐために、連れてゆかれる子供達・・・
睚 弥三郎 俺も あの城の中で見たぜ・・・皮をはがれるガキどもの叫び声が今も耳に残ってる!あの城は地獄だぜ・・・
ちっ、ま、明日は行ってやるぜ。
70 蘭菊 それでは!雇われていただけるのですね?
睚 弥三郎 どうするかだなぁ・・・おまえは相討ちで狩又と死んでも良いかも知れぬが・・・俺は・・・適当なところでずらかるぞ・・・
蘭菊 それで・・・けっこうです。
睚 弥三郎 姫さんがくだらねえ話聞かせるから、なえちまった。
続きは全部終わってからじゃ。
蘭菊 お待ちしております。
睚 弥三郎 ばかやろうっ!おめえ俺が何しに来たかわかってねえなっ!
蘭菊 はあ・・・すみませぬ。でも、頑張りますから。
睚 弥三郎 どーにも やりづれえな・・・
蘭菊 頑張ります、まなじれ様。
睚 弥三郎 早く服着ろ!俺は まなじりじゃっ!!
ナレーション 狩又城 城門。生皮を はぐために、大勢の子供が泣きながら城の中へ連れていかれとる。それを見送る親御の顔も、見れたもんじゃあないわい。
蘭菊 狩又貞義様の子供狩りの方々とお見受けします。私は蘭菊、その子らを お話なさい。
次郎丸!
80 ナレーション 忍者姿の からくり人形が行李から現れた。凄まじい早さじゃ、あっというまに兵士を打ち倒していくわい。
睚 弥三郎 行くぜ お姫さん!
蘭菊 はい!
睚 弥三郎 いっぱいくるぜ!
蘭菊 次郎丸「虎乱」!!
睚 弥三郎 からくりの門だ!閉じたら開けられぬぞ!
蘭菊 次郎丸を切り離します。糸を!
弁慶丸!
ナレーション 続いて巨躯の からくり人形が現れ、城門が閉まるのささえとる。睚と蘭菊が城門をくぐると同時に からくり人形は砕け潰れた。
死なずの忍び頭 待っておったぞ、下忍!・・・そして、文渡の姫君。
睚 弥三郎 ちっ、数が多いぜ。
90 蘭菊 でもやるしかないです。
睚 弥三郎 【違和感のある言葉に少し戸惑いつつ】

何だかうれしそうじゃな?
蘭菊 そうですか・・・
太郎丸!
死なずの忍び頭 かかれえ!・・・くくっ、かかったな。
蘭菊 動かない!
死なずの忍び頭 斬りたければ斬るがいい!手の一本でも動けば「死なずの忍び」が からくり人形に巻きつきその動きを止める!姫!お命頂戴いたします!
うぬっ!下忍邪魔だ!
睚 弥三郎 俺はそのためにいるんじゃ!
死なずの忍び頭 だが、ここはうぬらの負けよ!頼みの人形が動かぬのではなぁ!
睚 弥三郎 むうう・・・
蘭菊 まなじる様・・・私に策があります。合図をしたら向こうに飛んでください。
睚 弥三郎
(心の声)
何じゃ・・・この表情は・・・?
死なずの忍び頭 いざ覚悟!
100 蘭菊 今!!
ナレーション 姫様は「死なずの忍び」もろとも太郎丸を自爆させおった!
睚 弥三郎 火薬・・・か・・・
!馬鹿野郎っ!ここで死ぬつもりだったなっ!おいっ!?
蘭菊 すみません・・・まなじら様・・・私は・・・悪い姫です・・・
睚 弥三郎 何ぃ!?
蘭菊 前にお話した私の皮をもつ人形など・・・もうどうでもよくなっていたのですね・・・戦いの中でわかりました・・・私は・・・戦いによって私の人形が壊れてゆくのが嬉しくてしょうがなかった・・・
父は私の腕の中で死にました・・・炎に包まれた城で、矢を受け傷ついた・・・父が最後の言った言葉・・・「人形を燃やすな」・・・人形を・・・燃やすな・・・ですよ・・・父は・・・母のことも私のことも・・・最後まで感じてはくれませんでした・・・だから、私は戦いを理由に・・・人形にこそ復讐をしていたのです。父の大切にしていた人形を、殺してやる・・・でももう十分・・・これだけ人形を壊せば・・・父はあの世でどれだけ悔しがるでしょう・・・
・・・でも・・・でも・・・父上は・・・人形を操る私には・・・やさしかった!
睚 弥三郎 ばかやろう・・・父親を憎んだり・・・慕ったり・・・おまえは父親の操り人形じゃないぞ!

あのな・・・お姫さんが訪ねた幻術(めくらまし)の達人・・・ありゃ実は死んでねーんだわ。術が凄すぎて、ひょっとしたら自分がこいつに殺されると思われ、どこの城主も雇わなかったから、あきらめて下忍をしてたってよ!
蘭菊 も・・・もしや・・・
睚 弥三郎 もう決めた。俺はあんたに仕えよう。立派に忍びとして命を懸けてやる。操られるのが忍び。だが あやつり人形に操られるのはまっぴらだ!上様・・・俺の君主であることができますか?
ナレーション 睚は、狩又のおる座敷まで辿り着き、襖(ふすま)を両手で開いた。
110  睚 弥三郎 狩又貞義様、お覚悟を・・・この城も殿も終いです。からくりの姫君によりて。
狩又貞義 そうか・・・芥のような小娘がここまでやりおったのか。この狩又貞義になぁ。
睚 弥三郎 参る!
狩又貞義 たわけが!これは最も優れた人形ぞ!下忍風情が勝てるものか!!強さの道を求めんがため、人形とひとつになった余が下郎といつまでもやりあえるか!姫はどうした?姫の木偶人形は!!一度に動かせるのは一体だけだったな、物足りぬわ!
睚 弥三郎 くく・・・こちらの殿は、物足りぬとの仰せです・・・上様。
ナレーション なんと、一度に四体のカラクリ人形が現れ狩又に飛び掛った。
狩又貞義 なっ何ぃ〜っ!?人形どもを一度に全て操るだとぉお!!おのれえぇ!
ナレーション 狩又が斬ったカラクリ人形が消えおった!
狩又貞義 ま・・・幻(まぼろし)・・・!?
睚 弥三郎 殿・・・俺の名を お教えいたしまする。・・・加当段蔵。
120 狩又貞義 鳶加当・・・幻術(めくらまし)の加当か!
ぬっ!まだカラクリ人形を繰り出すか!もうその手にはのらぬ!幻(まぼろし)め!
睚 弥三郎 いいえ・・・俺は見たことのあるものしか、幻(まぼろし)にはできませぬ。
狩又貞義 何ぃ!?ぐあっ!ほ・・・本物の・・・人形か・・・
蘭菊 人形では、ありませぬ。
ナレーション カラクリ人形の正体は面と衣装を身に纏った姫様じゃった。
狩又貞義は自らのカラクリの滑車に巻き込まれ絶命したそうじゃ。

後日、いまだ燃える狩又の城を山腹から見つめる、姫様と睚の姿があった。
睚 弥三郎 やぁ三日間もはでに、燃えておりますなぁ。気味の悪い城主が死んで、民はとりあえず、ひと安心ですかね?上様。
蘭菊 あのう・・・
睚 弥三郎 は、何でございますか?上様。
蘭菊 その言葉遣いは・・・やめていただきたいのですが・・・
睚 弥三郎 とんでもない。この加当、下忍とはいえ、君主に対する礼は欠きとうございませぬ。
130 蘭菊 ・・・。ああ、思い出しました。滝での約束!
睚 弥三郎 はぁ!?
蘭菊 ほら、加当様のしたいことを蘭菊になさるという・・・
睚 弥三郎 ああ・・・。ありゃもういいのです・・・
蘭菊 よくはないです。私を嘘つきになさるおつもりですか!
睚 弥三郎 い・・・いや本当にそれは・・・
蘭菊 いえ、私がんばりますから。ほら まなじる様、約束を・・・
睚 弥三郎 まなじり!ええい!わかんねえ上様だな!
ナレーション 空は高く、どこまでも澄んでおる。しかし、いやはやこんなお話は聞いたこともない。こんな小さな主君のことはなぁ。この姫君を、後の人々は果たして何と呼ぶのじゃろう。