ベルセルク  千年帝国の鷹篇 喪失花の章
そこは、長年に渡る飢饉や戦争で荒れ果てた、とある土地。領民達は野盗や領主の軍隊を恐れ細々と生活していた。
そこには権力の縦構造があり、それは同時に迫害の縦構造でもあった。権力を持つものはそれを大いに行使し
弱者はいつも脅え、その腹癒せは更に弱い者に向けられた。人々の心は荒みきっていた・・・

 
01 ナレーション ベルセルク 千年帝国の鷹(ミレニアムファルコン)篇 喪失花(わすればな)の章

そこは、長年に渡る飢饉や戦争で荒れ果てた、とある土地。領民達は野盗や領主の軍隊を恐れ細々と生活していた。
そこには権力の縦構造があり、それは同時に迫害の縦構造でもあった。権力を持つものはそれを大いに行使し、弱者はいつも脅え、その腹癒せは更に弱い者に向けられた。人々の心は荒みきっていた。

荒野に一台の馬車が止まっている。困惑顔で車輪に見入っている馬車の持ち主らしき中年男の横には、14、5歳であろう快活そうな少女が愛くるしい小型犬と共に佇んでいた。
リタ あ〜あ、ついてないわね、こんなトコで故障なんて。
ナレーション 中年男は少女をリタと呼び修理を手伝うよう声をあげた。
リタ ハァ、仕方ないね・・・一宿一飯の恩ってね。
ヨブ〜!あんたも手伝いなよ!力は人一倍なんだから。
ナレーション 馬車の中から麻布で顔全面を覆った大男が顔を出し、呻き声で答えた。

突如、崖の上から男たちの叫び声が響いたかと思うと、馬車の周囲は瞬く間に、野盗たちに囲まれていた。
リタ なに!?
ナレーション 野盗たちは手に持つ武器で威嚇しながら不敵な笑みを浮かべ、リタに近寄る。
リタ 触んないで!誰があんたたちなんか!

・・・えっ?
ナレーション 緊迫した場の空気が変わった。一人の女性がまるで風のようにその場に歩み寄ってきたからである。
その褐色肌で黒髪の女性、表情はまるで赤子であった。
あっけにとられる野盗を気にすることもなく女性は真っ直ぐにリタが連れていた小犬に近付くと嬉しそうな表情で喃語(なんご)を発した。
10 リタ ・・・この人・・・
ナレーション 野盗は女性を物狂いだと嘲け笑いながらも、整った顔立ちをみながら高く売れると ほくそえみながら手を伸ばした。
その時、野盗の手を、投げナイフが掠めた。
投げナイフの飛んできた方向に振り向いた野盗は目を見張った。
黒い甲冑とマントを身に纏った隻眼隻腕の筋骨逞しき剣士が立っていたのである。
だが、野盗の視線を奪ったものは体中に刻まれた傷でも、鋼鉄の義手でもなく
男の背に佩(お)びた、身の丈よりも長大で分厚い大剣であった。
いや、それは 剣というには あまりにも大きすぎた。
大きく ぶ厚く 重く そして 大雑把すぎた。
それは 正に 鉄塊だった。
武器を構える野盗に対し、臆することなく男は口を開いた。
ガッツ ・・・やめとけよ。
ナレーション 一瞬であった。
たかが野盗とはいえ、幾多の殺戮を繰り返した所謂(いわゆる)手連(てだれ)たちである。互いに目配せし、一斉に男へと襲い掛かった。だが次の瞬間、男が振るった一太刀は野盗たちの胴体を完全に切断していた。
男は何もなかったかのように、身の丈を超える大剣を軽々と振り上げ背に佩(お)びた。
リタ あ・・・あの・・・
ナレーション 男は無表情のまま、先程の女性を連れ、その場を去ろうと歩を進めた。

その時、小犬が男目掛け走りよってきた。いや、小犬だけではない、小犬の上に跨った何かが、愛嬌のある声を上げた。
パック くおらーっ!人が お礼言ってんだから、ちゃんと聞いてやれっての!
ついでに食べ物もらうとか、お金いただくとかしなさい!・・・オレぶどう酒がいいな。
リタ な、なにその虫?
パック 失敬な!虫じゃなくてエルフだよエルフ!見たことないの?オレ パック。
20 リタ へ〜っ、初めて見た。あ、あたしはリタ、旅の芸人さ。
パック あ、この無愛想な奴はガッツ。
相棒兼、オレん家ってとこかな?
そんで、あれがキャスカ。
リタ あんた傭兵?だとしたら変わってるわね。
あんな女の人つれてるなんて。
!ゴメンゴメン、気に障った?
ま、あたしも同じような もんだけどさ。
パック え?
リタ あ、う、うん!
あ、あのさ、あたしたち、この先の街で一稼ぎしてるから、良かったら見に来て。どのみち一本道だし、街には立ち寄るんだろ?
あ。それから・・・ありがと、助けてくれて。それじゃ!
ナレーション 応急処置を施した馬車はリタを乗せ一路街への道を進んでいく。
パック 旅芸人か・・・ふ〜ん、あんな子が一人でね。
ガッツ 【キャスカが一人で歩き出すのを見て】
おいキャスカ!どこ行く気だ?
パック あの子の芸、見たいんじゃないの?街はすぐそこだし、見せてあげたら?
ガッツ バーカ、んなことしてる暇、俺たちにはねーんだよ!
30 パック でもさあ、たまには息抜きも必要だよ。ちっとは旅を楽しむくらいの余裕っつーもんがないと。
ねーねーいーじゃんかよ〜?見したげよ〜よ?見よーよ見よーよ見よーよー!?
ガッツ ちっ、どっちにしろ食料やら手に入れなきゃならねえからな。
パック ヤッター!キャスカ喜べ!オッケーだってさ!
ガッツ
(心の声)
・・・さっきの・・・ほんのわずかだったが、間違いねえ。あれは・・・
ナレーション 街へと足を踏み入れたガッツたちは、橋を渡りながら視線を巡らしている。
商売で賑わう広場、道端に うずくまる乞食、基点に立ち威圧する鎧騎士、そしてなにより目を引いたのは、他の土地では見たことがない道々に生えている赤き植物であった。
広場の中央では、小犬と共に芸を披露しているリタの姿があった。
パック あ!やってるやってる!
リタ イルク!行くよ!
ナレーション 小犬のイルクの宙返りを皮切りに、リタの空中旋回が決まる。盛り上がってきた人々を前にリタが口上を続ける。
リタ さぁ〜て、次は一番の出し物だ!ヨブ!
ナレーション ヨブと呼ばれた男がノッソリとその巨体を現した。布で顔を覆い、そこから眼だけが不気味に光っている。ヨブの手には身体の半分くらいある棍棒を握っている。ヨブは棍棒を自慢の力でブンブンと振り回した。人々の歓声が上がる中、ガッツはヨブに人ならぬものを感じていた。
40 ガッツ あいつ・・・
ナレーション ヨブは足元にあった酒瓶につまずき、棍棒を振り回しながら地面に倒れた。大笑いする人々。
だが、転んだ拍子に顔を覆っていた布が外れ、顔が見えた途端、人々の顔が激変した。
ヨブの顔に、もう一つの顔が浮き出ていたのだ。街の人々は口々に叫んだ、「マンドラゴラ憑きだ!」と。
パック マンドラ・・・ドラドラ・・・何?
ナレーション 街の人々はヨブを化け物と罵り石を投げつけた。
リタ やめてよ!この子が何したってのさ!?
ナレーション 人々はなおも石投げつける。その時、脅えながら うずくまり、体を震わせていたヨブの体が、変形し隆起していく!
リタ ヨブ!
ナレーション 変形を繰り返し怪物と化したヨブは叫び声を上げながら街の人々を次々と襲っていく!。
リタ 駄目よヨブ!やめてーっ!
50 ナレーション 逃げ惑う人々を掻き分け、ヨブはキャスカに襲い掛かった。ガッツはキャスカの前に立ち、盾となりながら大剣を抜き、ヨブの体を切っ先で貫いた。地響きを立てて地面に倒れるヨブ。人々は亡骸を取り囲むと、弄(なぶ)りながら罵倒する。
リタ 【街の人々に向けて】
やめてよ!ここまですることないだろ!?
ナレーション 突発的にガッツめがけリタの手から投げられたナイフはガッツの左手の義手に弾かれ地面に転がった。
リタ 【ガッツに向けて】
なにも・・・なにも殺すことなかったのに!
ガッツ 化け物相手に手加減する剣は知らねえ。
リタ ・・・違う!ヨブは化け物なんかじゃ・・・
ナレーション 広場を大勢の鎧騎士が包囲した。装甲板に包まれた大型の馬車が中心で止まり、扉が開き、威厳溢れる髭づらの男と、執事らしき白髪の老人が降り立った。
執事ギョーヴ 皆の者 下がれ!これより検分を行う!何人(なんびと)たりとも死体に触れること まかりならん!
バルザック この太刀傷・・・お前か?こいつと殺ったのは。
ガッツ ああ・・・
60 バルザック 私はバルザック この街を治める者だ。そなたには礼を言わねばならんな。
この病にかかった者は、一度暴れだすと死ぬまで破壊の限りを尽くす・・・
ガッツ 病?
バルザック 数年前より近隣の街で流行り始めたものだ。現在(いま)はまだ その治療法が見つかっていない。
【キャスカを見て】
ん!?その者は・・・まさか、マンドラゴラ憑きか!?
ガッツ こいつは そんなわけの分からねえのとは違う!
バルザック なるほど・・・だが 物狂いには違いあるまい。
ふむ、どうだ?もしかしたら我が医術が力になれるやもしれぬぞ。
ガッツ なんだと?
バルザック 我々は、マンドラゴラ憑きの治療法を研究している。
ガッツ マンドラゴラ?
バルザック 同種の病ならば 治療に協力できるかも知れぬ。
それに貴殿には礼もせねばならん。その者と共に 我が城に参られよ。
ガッツ いいぜ、案内しな。
70 バルザック 話は決まった では 私は客人と共に城へ戻る。
後はその方らに任せる。
執事ギョーヴ では・・・後は手筈通りに・・・
バルザック うむ・・・
ナレーション ガッツたちはバルザックの屋敷の中へと通された。
バルザック 本来ならば、その方らを歓待せねばならぬところだが、その前に貴殿には見てもらいたいものがある。
いや・・・危険ゆえ、貴殿だけに来てもらいたい。
パック 心配すんな、オレがしっかりガードしててやっから。
ガッツ ・・・なんかあったら、すぐに知らせろ。
ナレーション バルザックたちはガッツと共に地下へと降りていった。
キャスカは何かを見つけ大広間の奥へと歩いていく。
パック ああっ!キャスカ〜っ!
ナレーション キャスカは壁に飾られた人物画の前で立ち止まり見つめている。
80 パック あれ?
ほえ〜っ、キレ〜な人、誰だろ?
ナレーション ガッツは首の烙印に痛みを感じた。
ガッツ くっ!
バルザック いかがした?
ガッツ いや、なんでもねえ・・・
ここは?
バルザック マンドラゴラ憑きの収容施設だ。
先程の男のように、突然暴れ出す恐れがあるため、街から隔離しているのだ。
現在ここではマンドラゴラ憑きの治療と研究が行われている。
ただ、領民たちにいらぬ心配を与えぬために、このことは彼らには秘密にしてある。
貴殿は、マンドラゴラ憑きについて 何かご存知かな?
ガッツ いや・・・
バルザック 数年前、領内のある村で 奇妙な病が流行り始めた・・・
ある日突然、村人全員に植物の根のようなものが憑りつき、憑かれた者は物狂いになってしまった 原因不明の奇病だ。
噂では 気づかぬうちに領内のあちこちで見たこともない植物を目にするようになり、それが夜な夜な独りで動き出し、人間に取り憑いたというのだ。
この人を思わせる形状、そしてこの植物に関する不気味な噂から、誰ともなくマンドラゴラと呼び、恐れられるようになった。
人を狂人たらしめる毒草であり同時にあらゆる病に効き不老長寿の薬ともいわれた伝説の植物 マンドラゴラ・・・事実この植物には、伝説と同等の効力があるのだ。
ガッツ 聞いたことがるぜ、そいつを土から引っこ抜くと悲鳴みてえな声をだすんだってな。
そして・・・その声を聞いたやつは。
バルザック そう、ことごとく命を落とすといわれているが その効力ゆえに危険を冒しても手に入れようとする者が後を絶たぬ。
だが、地面から引き抜いても すぐに枯れてしまう。・・・薬に精製するためには マンドラゴラの核が必要なのだ。
90 ガッツ 核?
バルザック 核は大樹となったマンドラゴラに存在し、切り離しても枯れることはなく 逆に少しずつ復元していく。
この核から精製した薬ならば マンドラゴラ憑きを治療することも可能なのだ。
患者をここに隔離する以前、私はマンドラゴラ憑きの はびこる村に軍勢を率いて攻め入ったことがあった。
これ以上、被害を出さないために・・・
彼らとの闘いは凄絶を極め、我が軍は破壊的打撃を受けた。
その時 生き残った私は、ある物を持ち帰った。
マンドラゴラの核の一部をな。
しかし、それでは足らなかった、多くの病人を救うためには、もっと大きな核が必要なのだ。
ガッツ 回りくどいぜ、何が言いたいんだ?
バルザック その村は、国境近くに存在する、今でも当時のままでな。

大樹の核を採取するため、その後も私は幾度も村に部下を送り込んだのだが、無事帰還した者は一人としていなかった・・・だが研究のためには、どうしてもあれが必要なのだ!
そこで、貴殿の腕を見込んで仕事を依頼したい。
ガッツ 仕事・・・?
バルザック 左様。
マンドラゴラ憑きの村に潜入し、核を採取すること。
その報酬として、連れの娘の治療を当方で引き受ける。どうかな?
大樹の核より精製した薬ならば あの者の病も治すことが出来るはず 約束しよう。
ガッツ あんたはどうにも胡散臭い、まだ何か隠してそうだが・・・
いいぜ 乗せられてやるよ。
バルザック 商談成立だな・・・。
ナレーション その頃パックは、屋敷の中を歩き回るキャスカを追いかけていた。
パック キャスカ!ダメだって!あちこち勝手に行っちゃ!
ん!?あれは・・・リタ?
100 ナレーション 裏口のドアが開き、リタが鎧騎士に連れられ入って来る。
リタ 離してよ!あたしが何したって言うのさ!?
ナレーション 鎧騎士はリタを床に投げ捨てると剣を振り上げた。次の瞬間、鎧騎士は小さく呻き声をあげリタに覆いかぶさるように倒れた。その先にはボウガンを構えた男たちが立っていた。
バルザック あの村には、何を思うてかマンドラゴラ憑きどもと寝食を共にし 連中の保護者を気取るシスターがいる。
私とは立場も見識も違うゆえ協力を求めても同意を得られなかったが、貴殿ならばあるいは・・・
ガッツ あいにく 聖職者ってのとは相性が悪くてね・・・
執事ギョーヴ 差し出がましいこととは存じますが・・・
素性の分からぬ者に頼らずとも、例のものも完成間近、これまでの研究の成果で十分では・・・
バルザック おまえの意見は聞き飽きた!もう待てぬわっ!
執事ギョーヴ はっ!し、しかし・・・
ガッツ なんの話だ?
執事ギョーヴ !バルザック様!伝令です!敵が屋敷内に潜入してきております!
110 バルザック なにいっ!?
・・・どうやら 奴らの力を侮っていたようだな。
申し訳ないが失礼する!
ナレーション 足早に研究所を出て行くバルザックたち。そこに慌てた表情のパック飛んでくる。
パック ガッツ〜!た、大変だーっ!
ガッツ まさか キャスカになにか!?
パック 連れてかれちゃったんだよ!変なやつらが なだれこんできて・・・
ガッツ なんだと!?
パック おれも必死に戦ったんだけど 敵の数は多いし。
ガッツ キャスカ・・・!
パック やつら、裏門のほうに行ったぞ!こっちだ!
バルザック ここまで侵入を許すとは・・・!
120 執事ギョーヴ 申し訳ありません、この失態は奴らの命であがなう所存・・・
バルザック 当然だ、急げよ。
執事ギョーヴ はっ!
ナレーション 謎の男たちに連れ去られたキャスカたちを追って、ガッツたちは遺跡に辿り着いた。ガッツは入口の護衛に声をかけた。
ガッツ てめえらか!?俺の連れをどこへやった!?
・・・知らねえだと!?
パック とぼけんなーっ!とっとと言わねーと血ぃ見るぞ〜!
ほーれ ほれ ほーれ さっさと吐かんかーい!
ガッツ やろうってのか・・・面白れえ・・・
ダンテス 待て!そいつは敵じゃない!
すまない、あんたのことを聞いたのは ついさっきなんでな。
ナレーション 護衛を静止したリーダーらしき男の横からリタが歩み出てくる。
パック リタ!
ナレーション リタはパックの横をすり抜け、ガッツの頬を打った。
130 リタ なにやってんのさ あんた!?
ガッツ あ?
リタ 見損なったよ!馬鹿でかいもんぶら下げて ご大層ななりしてるけど、女一人守れなくて何が剣士だい!
ダンテス 悪く思わないでくれ、この子、バルザックの部下に殺されそうになってな。
ガッツ なに・・・!?
ダンテス あんたの連れの女は 中にいるぜ。
俺の名はダンテス。とりあえず中に入りな、話はその後だ。
リタ フンッ!
ナレーション ガッツたちはダンテスの先導で遺跡の中へと入って行った。
ダンテス ここは古い時代の遺跡で、戦が起こるたびに街の人はここに非難しているんだ。今は俺たち抵抗軍の隠れ家になっているがな。
あんた、バルザックの城で妙な部屋を見なかったか?マンドラゴラ憑きが収容されてる 牢屋みたいな部屋。
ガッツ ああ マンドラゴラ憑きの治療法を研究してるらしいが・・・
140 ダンテス 違う! あいつは・・・バルザックは マンドラゴラ憑きを戦に利用しようとしてるんだ!
危険だからという名目で近くの村や街からマンドラゴラ憑きを強制的に連れてきては 研究と称して人体実験を行い、そして それを知ってしまった者を影で始末してるんだ。・・・このお譲ちゃんみたいにな。
ガッツ さっき城に押し入ってきたのは?
ダンテス 捕まった仲間を救出しに行ったんだ。そしたら偶然あんたの連れを見つけて、てっきり人体実験の被験者だと思って 一緒に連れてきたんだ。
バルザックは マンドラゴラ憑きのことを外部に漏らさないために、俺たち街の人間が外へ出ていくことを禁じている 外から入ってくる者たちも同じだ。
一旦この街に入ったら もう外には出られない。
パック そんな・・・
ダンテス 俺たちは 昔から この土地に住んでいたんだが 国境に近いこの街は 戦の拠点として多くの国や軍隊に占領されてきた。
領主が代わるたび 俺たちは常に新しい領主に虐げられてきたんだ。
ガッツ バルザックも その中の一人ってわけか。
ダンテス 最初は そうじゃなかった。
敵には鬼神と恐れられはしたが、俺たち領民を虐げることはしなかった。
むしろ名君と呼ばれるべき男だったよ・・・だが今はちがう。
あの病が流行り始めたころから あいつは変わってしまったんだ!
ガッツ ・・・キャスカはどこだ?
ダンテス 下の部屋でかくまってる、案内するぜ。
ナレーション ダンテスの案内で下の階へ案内されるガッツたち。
そこは階全体が透き通った水で満たされたていた。中央からは泉が湧き出している。
150 ガッツ キャスカ!・・・無事だったか。
ダンテス・・・邪魔したな。
ダンテス どこへ行くつもりだ?
ガッツ バルザックとの約束だ。マンドラゴラ憑きの村に行って大樹の核を取ってくる。
ダンテス なに!?さっき言っただろ!?あいつはとんでもない悪党だ!なのになぜ!?
ガッツ 必要なのさ・・・その悪党の研究がな。
こいつを治す薬ができるのなら、俺はそいつに賭けてみる。
ダンテス 薬?
ガッツ 城の中には 確かに研究室があった。俺には 奴の作る薬が必要なのさ。
ダンテス しかし!そいつが本当だという証拠はどこにもない!
ナレーション 赤子を抱いた女性がダンテスに詰め寄り、バルザックの研究があればマンドラゴラ憑きを治療できるかもしれないと懇願する。彼女の名はアネット、ダンテスの妻であるという、その身に抱いた赤子は、マンドラゴラに憑かれていた。
ダンテス ・・・確かに・・・そうかもしれない。
だが 認めるわけにはいかん、俺たちを虐げるだけの奴らの力を借りるなど。
160 リタ え!?
ダンテス 今ある街は、俺たちの先祖が流した血を幾重にも塗り固めた上に築かれたものだ・・・それを考えると。
リタ 分かんないよ そんなの。
ダンテス えっ・・・?
リタ 死んじまった者とか 流した血とか苦しみとか そんなものに縛られて・・・
それでいいの? そんなとっくに過ぎたことと この子たちの未来 引き替えに出来るの!?
ダンテス それが人の運命というものだ。人は流した血に縛られる。
リタ 違うよ!人は一人だよ!もっと自由で 何にも縛られず 風に任せてどこにだって行けるんだ!
ダンテス あんた 親兄弟はいないのか?
あんたはまだ若い、いつか 何かのために血を流す時が来る。
あんたにとって それが血を流すだけの価値が有るものであることを祈ってるよ・・・。
ナレーション リタは思わずその場を走り去り、泉のそばに腰を降ろした。パックが心配そうに近付く。
170 パック リタ・・・
リタ あたしは ずっと一人でやってきたんだ・・・誰にも頼らず 自分だけの力でね。
パック じゃぁ、あのヨブってマンドラゴラ憑きは?
リタ フッ、食い物やったらついてきちゃってさ そりゃ最初はビックリしたよ。
けどさ・・・あいつ ほんと子供みたいでさ、いつもニコニコ なんも分からずに笑ってた。それが・・・
ガッツ すまなかったな。
パック ひょえーっ!珍しい 雪ふるぞ。
リタ ううん・・・仕方ないよ。あの時ヨブ放っておいたら あのお姉ちゃんが危なかったんだ。
あたしの方こそ さっきはゴメン あんなこと言って。
ガッツ 流した血に縛られる・・・か。あいつの言う通りかもしれねえ。
けどな だからこそ 血を流すだけの価値があるものを 自分で見つけるんだ。
リタ ガッツ・・・
ダンテス 話はすんだか?俺たちのほうもまとまった。
あんたと一緒に行き、大樹の核を手に入れて その上でバルザックと交渉する。
これを渡す代わりに、治療薬を我々に渡せとな。
180 ガッツ 勝手にしな。
ダンテス では 連れの娘さんは ここで預かっておこう。
ガッツ 俺はあんたらを完全に信用したわけじゃねえ・・・
それに、こいつの面倒見れるのは 俺だけだ、俺にしか こいつは守れねえ。
パック 悪霊がキャスカを襲うか心配なんだろ?それなら大丈夫だと思うよ。
ガッツ ああ?
パック この泉・・・間違いない エルフの住処だよ。
ダンテス これは町の泉の源泉だ。
我々の先祖はここに神殿を建てて 精霊を祀(まつ)っていたらしい。
パック 他の部屋はともかく ここだけは安全だよ。悪霊は絶対に近づけない。
リタ あ・・・あのさ、あんたがいない間 キャスカは・・・その・・・し 心配しないで!あたしが 見ててあげるから・・・
ガッツ あん?
ふっ・・・ ああ 頼んだぜ。
ついでに こいつも付けといてやる。
190 パック わああっ!こらっ!大事な相棒に向かってなにすんだよ!投げつけることないだろ!
ガッツ じゃ、行くぜ。
ナレーション ガッツたちは大樹の核があるという国境近くの村を目指し遺跡を後にした。
泉ではキャスカが赤子のようにパックとじゃれている。
パック ほーらキャスカ!こっちこっち!
リタ フフッ こうしてると なんだかヨブが戻ってきたみたい。幸せなのかな あんたは・・・
ナレーション 扉が打ち壊される音と共に大勢の足音と悲鳴が響いた。
リタ なに!?
執事ギョーヴ 実験の成果も上々だ。 このマンドラゴラ兵の力をもってすれば、大樹の核を手に入れることなど造作もないこと!
おやおや お嬢さん また会いましたね。さあ、ご同行願いましょう。
ナレーション ガッツたちはマンドラゴラ憑きの襲撃を受けながらもなんとか村へと辿り着いた。
村に入ったガッツたちは驚きを隠せなかった。マンドラゴラ憑きだけが住む村、そこはまるでありふれた草花のようにマンドラゴラが根付き、暮らすものたちの表情は荒みきった人間たちからは決して見られない無垢な笑顔に包まれ安らぎに満ちていたのだ。
ダンテス この村のどこかに マンドラゴラの大樹があるのか。
200 ナレーション ガッツの首の烙印から血が流れた。
ガッツ クッ!
ダンテス しかし皮肉な話だな、取り憑かれたこいつらの方が生身の俺たちよりも生き生きしてる。全部こいつのせいってわけか!
ガッツ っ!よせ!
ナレーション ダンテスが地面から引き抜いたマンドラゴラは悲鳴とも叫びともつかない音を発した。
ダンテス ぎゃあぁぁぁあっ!
ナレーション その音を聞いた抵抗軍は命を失い地面に倒れていく。それまで穏やかであったマンドラゴラ憑きたちの顔は狂気に歪み、怪物へと姿を替え、ガッツたちに襲い掛かった。
ガッツ チッ!
ダンテス ぐっ・・・すまん・・・妻と・・・息子を・・・!
ガッツ くっ・・・!殺るしかねえか!
210 ナレーション ガッツの大剣「ドラゴンころし」が迫り来るマンドラゴラ憑きたちを薙ぎ払っていく。
修道女エリザ 剣を納めて!引き抜いたマンドラゴラを 土に返して!
ガッツ なに!?
ナレーション ガッツが振り向いた先には一人の若きシスターが立って居た。
シスターがダンテスの躯(むくろ)が握っていたマンドラゴラを地面へ戻すと、マンドラゴラ憑きたちが柔らかな表情を取り戻した。
ガッツ あんたか?こいつらの面倒見てるシスターってのは。
修道女エリザ 私はエリザ。
どうしてこのような無益な殺生を・・・。
この子達は 何も悪いことはしてません。こちらが敵意を見せない限り 無邪気な子供と同じなんです。それなのに・・・
リタ ガッツーっ!大変だよ!キャスカが キャスカが!
ガッツ なにかあったのか!?
リタ ガッツだちが出てった後、バルザックの部下がアジトに攻め込んできて キャスカはそいつらに連れてかれて、返してほしかったら 大樹の核を持ってこいって!
ガッツ っ・・・野郎っ!
おい! 聞いたとおりだ 大樹はどこだ!?
220 修道女エリザ ・・・以前この村にはニコという少年がいました・・・。
彼は物狂いで 時には畑の作物に手を出したりした事もありましたが 根は善良で大人しく、決して人を傷つけることはありませんでした。
たとえ村人たちが からかい半分に彼を石や棒で打ち据えたとしても・・・
ニコは その日の食べ物にありつけたことに喜び 空が晴れ渡っていることに感激し
どんな苦しいことがあっても 微笑みを絶やしはしませんでした。
ところが・・・ある冬 ニコは飢えと寒さで生死の境を彷徨っていました。
その年は例年に無い大凶作で、誰一人 彼に食べ物をめぐむ者はいませんでした。
そして ニコは最後の力を振り絞って教会にたどり着いたのです。
でも・・・私は 気づいてやれなかった。
戸を叩く音は 新年の鐘の音にかき消されて 私が見つけたときには もう・・・
なにも悪いことはしていないのに 他の人たちと少し異なるだけで 虐げられ 蔑まれ続けた彼
なぜニコは 死ななければならなかったのでしょう。
・・・本当に 無垢で純粋な どこにでもいる普通の少年だったのに。
ガッツ ここのマンドラゴラ憑きたちも同じだって言いたいのか?
だが もう人畜無害ってわけにはいかねえ。
今さっきも 俺の連れを全員バラしちまったところだぜ。
修道女エリザ あなた方が知らずにタブーを犯したからです、マンドラゴラ憑きは 苗を引き抜いたり こちらから危害を加えなければ 決して攻撃したりしません!
けれど人々は 彼らを迫害し 化け物と嘲(あざけ)り 排除しようとします。
そしてバルザック・・・。街のためだと言っては 領地内のマンドラゴラ憑きを狩り集め まるで虫けらのようにその命を奪っています。
恐怖や野心を暴力という形でしかあがなえない人々。
私には彼らの方が よほど救いがたい 危険な存在に思えるのです。
お願いします この村を・・・私たちをそっとしておいてください!
私たちは今のままで 十分満ち足りています!
リタ でも このままほっといたら マンドラゴラ憑きがどんどん増えてっちゃうじゃない。
誰も好き好んで あんな風になりたいとは思わないはずだよ!
修道女エリザ ・・・私 思うんです。
あの街に住む人たちと ここでこうして暮らしている私たち。
一体 どちらが幸せなのでしょう。
リタ えっ・・・?
修道女エリザ 誇り 悲しみ 怒り 野心 あるいは 愛着なのかも知れません。
人としてのそんな思いが故に血塗られた歴史を繰り返していく彼らと、たとえ姿形が変わっても その全てから解き放たれ 童のように微笑むあの子たち・・・あなたには どう見えて?
リタ そ それは・・・
ガッツ ・・姿も違う 心も違うなら そいつは もう人間とは呼べないぜ。
人間ってのは もっとえげつねえもんだ。
修道女エリザ 聞き入れては もらえないのですか?
230 ガッツ 悪いが俺は人間なんでね 俺は 自分の想いのために血を流すまでだ。
こっちの都合で申し訳ねえが 大樹の核とやらをいただいて行くぜ。
黙って渡してくれりゃ 手荒なマネはしねえ。
リタ ガッツ・・・!
あっ!
ナレーション 教会の中へ走り去るシスターをガッツたちは追った。
リタ 【走りながらガッツに向けて】
私・・・わかんない。
でも今は キャスカを助けるためには マンドラゴラの核が必要なんだよね!?
【立ち止まり】
地下道?どうして教会に こんなものが・・・
ガッツ お前はここで待ってな。
リタ あたしも行くよ!
ガッツ 一人の方が 都合がいいのさ・・・
ナレーション バルザックの城の最上階に閉じ込めれれているキャスカの元に、窓の格子をすり抜けながらパックが現れた。
パック フッフッ、まんまとキャスカをさらったつもりだろうけど、そーは問屋が卸さない!くわあいけつ!ズッパーーーーーック!
ったく 善人面してとんでもない悪党だよな あのオッサン!
わああっっ!キャスカ!つかまないで!オレはオモチャじゃないっちゅーの!
それにしても なんとか 早いトコ こっから抜け出さないと 日も暮れたし このままだとそろそろ・・・
ひーっ!で、出たあああっ!悪霊退散悪霊退散〜〜っ!寄るな触るな近づくなーっ!ひゃあぃぃぃぃぃぃぃっ!
・・・!! この感じ!
ナレーション 満月の夜空を飛空する巨大な影があった。地面を揺るがす翼の音が城の真上に差し掛かった時、屋根が崩れ、全身獣毛に覆われた大きく長い尾を持つ黒い巨獣が降り立った。その牡牛の後肢と角、獅子の頭部と前肢、蝙蝠型の翼を持った巨獣が姿を現しただけで悪霊たちは瞬時に姿を消していた。巨獣は咆哮を発している。
240 パック 【ゾッドと呼びたいが恐怖のあまり言い切れず】
ヒッ!ゾ ゾゾゾ〜〜〜〜〜ッ!!
ゾッド 妖気をたどって来てみれば お前は烙印の剣士の・・・
フフ ならばヤツもこの近くにいるということか。
面白い!どうやら楽しみは一つ増えたようだな!フハハハハハハハ!
ナレーション 巨獣は高笑いと共に翼を広げ満月に向かって飛び立った。
パック ふぇぇぇ た 助かった・・・
でも なんだったんだ? なんであいつがここに
・・・ん?ラッキー!扉が壊れてる!キャスカ 脱出するよ!

さーてと、出口はどっちだ?早いとこガッツと合流しないと・・・
ここはさっきの・・・ ああっ!
ナレーション 追ってから逃げるために入り込んだ一室、そこはマンドラゴラ憑きの研究所であった。壁や床は血に塗れ、溶液に漬けられ ふやけたもの、鋸で切断されたもの、鉤爪で吊り上げられたもの、様々なマンドラゴラ憑きたちの死体で埋め尽くされていた。
パック ひどい・・・ こんな実験してたんだ。
!やばい!人が来る!キャスカ!こっちこっち!

ふぅ とりあえず一安心・・・
あれ?あの娘・・・
ナレーション 追ってから逃れるために入った部屋でパックたちは不思議な雰囲気な少女に出あった。
キャスカが喃語(なんご)を発しながら近付くと人形を抱えた少女はにこやかに笑った。
少女の背後の壁一面に男女の絵が飾られている。
パック この男のほうは・・・若い頃のバルザックだ。で、隣りにいるのが 奥さんだよな?
ってことは この子はバルザックの娘?
ほえ〜っ 母親そっくりだ でも あの怖い顔のオッサンに こんな可愛い娘がいたなんて。まさにひょーたんからコマ・・・もとい!棚からぼた餅だな。
ナレーション 外の扉をノックする音が聞こえた。
パック わっ! き 来たあっ! ああどどどーしよ〜!?

!あれは 隠し扉!? ラッキー!キャスカ 行くよ!

あれ?なんだ?この部屋?
なんじゃこりゃ? 妙ちきりんな
水槽に入ってるのは・・・赤ん坊?
!ちょ ちょっとキャスカ!水槽から出しちゃヤバイよ! やめなさいって!
250 ナレーション キャスカの腕に抱かれた、赤ん坊らしきものが悲鳴とも叫びともつかない音を発した。
声に反応し、牢屋に閉じ込められていたマンドラゴラ憑きたちが怪物と化し檻を吹き飛ばし暴れ始めた。
同じくして地面に根付いていたマンドラゴラたちが地面を這い出し、バルザックの城へ向け歩み始めた。

その頃ガッツは地下道を進みシスターと再会していた。巨大な花を思わせるマンドラゴラの核と共に。
花弁の中心に少年の姿があった。
修道女エリザ 来てしまったのですね・・・
ナレーション 少年が悲鳴とも叫びともつかない音を発した。
ガッツ !うっ・・・はぁっ、はぁっ・・・
ナレーション 命を奪う音に、両耳を塞ぎ身をかがめて耐え抜いたガッツが視線を地面からシスターに向けた時、ガッツの表情が動いた。
ガッツ !・・・なるほど いつもまわりにマンドラゴラ憑きがいたんで気づかなかったぜ・・・ あんたも奴らの仲間かよ!
修道女エリザ 分かっては・・・ もらえないのね・・・
今のままで十分なんです!これ以上 傷つけないで!
ナレーション シスターの背中からマンドラゴラの種が生まれ落ち、ガッツ目掛け放たれた。
ガッツは避けながら大剣を振るった。
修道女エリザ ああっ!
ナレーション ガッツはシスターを切り倒すと核目掛け走り寄った。
核はシスターの痛みに同調し強く振動すると、無数の種をガッツ目掛け吐き出した。
ガッツは大剣を盾に防ぐと真一文字に核本体を切り裂く。
核は液を吹き上げながら、再び音を発した。
一瞬動きの止まったガッツの足を、触手が巻き上げる。
宙ぶらりとなったガッツは左腕の鋼鉄の義手に仕込まれた大砲を放つと触手を切り取り、地面に落下しながら花弁の中の少年を分断した。
核は最後の音を発しながら息絶えた。

少年を抱き上げる女性の手があった。
260 ガッツ !てめえ 生きてたのか!?
修道女エリザ 渡さない・・・ この子は誰にも渡しません!
ナレーション 地下道を抜け教会から外へ出たシスターが見たものは燃えさかる村の姿だった。
そこら中にマンドラゴラ兵に殺されたマンドラゴラ憑きたちの躯が転がっていた。
修道女エリザ はっ!これは・・・!
そんな・・・いつの間に・・・
執事ギョーヴ ククク・・・また一匹見つけましたぞ マンドラゴラ憑きの化け物!
修道女エリザ 神よ・・・ 私たちを あなたの元へお導き下さい そして 罪深きこの者たちにも どうか安らかなる日々を・・・
ナレーション シスターは少年を抱いたまま燃えさかる炎へ身を投じた。
リタ やめてーっ!

いや・・・いやあぁぁぁぁぁっ!
こんなの・・・こんなのって・・・

あいつらだよ!キャスカを連れ去ったのは!
ガッツ てめえ・・・どういうこった こいつは!?
執事ギョーヴ 街で あなたの行動を監視していたところ あなたが不穏分子のアジトに招かれるのを私の部下が偶然目撃しましてね。おかげで街のゴミどもを一掃することが出来ました。
270 ガッツ くうっ!
執事ギョーヴ しかしながら この件に関して あなたはよそ者だ・・・素性の知れぬ旅の者に これ以上深入りされては なにかと私も都合が悪い・・・
クッ クククッ・・・ 大人しく従っていただきましょうか?我々には人質があることをお忘れなく・・・クククククク
ナレーション 笑い続けるギョーブの空が暗闇に包まれた。
先程まで自分の足元を照らしていた月の光が消えたのだ。
天を見上げたギョーブが最後に見たものは巨大な足であった。
全身獣毛に覆われた大きく長い尾を持つ黒き巨獣 ゾッドが地響きを立てながら地面へ降り立った。
周りにいたマンドラゴラ兵たちはゾッドの尻尾の一振りで絶命した。
リタ 【恐怖を感じながら】
なに!?
ガッツ ゾッド・・・
ゾッド 一足遅かったようだな この手で試してみたいところだったが・・・
だが 人間をして敗れるようでは 鷹も必要とはすまい。
ガッツ っ! グリフィス・・・
化け物の軍隊でもこさえようってのか?
ゾッド どうかな・・・
それより ここで貴様と出会いしは まさに奇縁よ!
いつぞやの続き 今ここで決してみるか!?
ガッツ リタ!・・・下がってろ!
ナレーション 満月の元、ガッツとゾッドの闘いが始まった。
ガッツの大剣が、ゾッドの爪が、五体を軋ませ、血飛沫が舞う。
果てしなく続くかと思われた激闘は唐突な終わりを迎えた。
280 ゾッド 腕を上げたな 烙印の剣士。
ガッツ 【息を切らしながら】
どうした!? 俺はまだ生きてるぜ。
ゾッド フ・・・今はここまでにしておこう 互いに先んじてすべき事があるはず。
小骨が喉につかえた者同士では 心おきなく死地を味わうことは叶わぬわ。
ガッツ なに・・・?
ゾッド 急ぐがいい 烙印の娘 あのままでは危ういぞ。
ナレーション ゾッドはそう言い残すと翼を広げ飛び去った。
ガッツ キャスカ・・・!
リタ ガッツ! あ あれ見て!
ナレーション 生き延びたマンドラゴラ憑きたちからマンドラゴラが剥がれ落ち、人間としての意識を取り戻していく。
リタ 大樹が倒されたから 苗の方も枯れちゃったんだ。
よかった みんな正気に戻ってく・・・
290 ナレーション 意識を取り戻した村民は周囲の惨劇に悲鳴をあげる。
状況を理解できずうろたえる男。
両親を失い悲しみに咽ぶ子供。
子供の亡骸を抱いた女が返り血を帯びたガッツを人殺しと叫ぶ。
村民はガッツ目掛け石を投げつける。
ガッツは村人に背を向け歩きだした。
リタ なんで言わないのさ! 悪いのは あんたじゃないんでしょ!?
ナレーション リタはガッツの後を追った。
そしてふと立ち止まり、振り返った。
リタ もうここには いないんだ 幸せな人・・・
ナレーション バルガスの城に戻ったガッツたちを慌てた表情のパックが迎えた。
パック ガッツ! キャスカが キャスカが〜っ!
ガッツ どうした!?
パック マンドラゴラに 取り込まれちゃったよ〜〜〜っ!
ガッツ なに!
パック おまけに城のマンドラゴラ憑きたちも暴れ始めるわ
バルザックは軍隊出すわ
研究室のマンドラゴラ憑きの兵隊も出すわ
街の人たちも花に取り憑かれて暴れだすわで もーなにがなんやら!
300 ガッツ キャスカ!
ナレーション 襲い来るものたちを蹴散らしながら侵入した城の内部でガッツたちは微笑みながら歩く少女を見つけた。
ガッツ あいつは・・・
パック バルザックの娘だよ さっき見た。
リタ バルザックの?
こんなトコに ほっとけないよ。
パック えっ・・・?
リタ 一緒に来て!
パック よ〜し 行くぞ! はぐれるなよ!
ナレーション 扉を開けたガッツたちを迎えたのは、玉座に身を委ねたバルザックだった。
バルザック 戻ったか・・・
【ガッツたちと一緒にいる女性を見て驚く】
!!・・・どうしてここに・・・。
310 ガッツ てめえ・・・キャスカはどうした!?
バルザック これは取り引きだ 手ぶらでは商談には応じられぬ もっとも もはや手遅れだがな。
ナレーション バルザックは ゆっくりと玉座から立ち上がった。
バルザック お前の願いは叶えられぬ そして・・・私の望みも・・・
リタ 一つだけ聞かせて、昔は名君って言われてたあんたが どうして?
バルザック 若き日の私は 領民を守るため 病弱な愛しき妻を守るために闘った・・・
幾たび死地に赴こうと この身から どれほどの血を大地に注ごうと 怯みはしなかった。
私は若く 守るべき民があり 愛する者がいた 何も恐れはしなかった 全てを背負っていけると信じていた・・・
だが少しずつ まるで雪が積もるように 少しづつそれは積もっていき 私にのしかかってきた。
リタ 積もる・・・?
バルザック 積年だ。
リタ 積年・・・
バルザック フ・・・娘よ 今はまだ分かるまい。
果てしなく続く戦 荒れ果てていく領地 疲弊する民 治る見込みのない妻 全ては重くくすんでいく。
期待は苛立ちに変わり 愛は重荷になり果て 全ての甲斐あるものが疲れに覆われていく・・・
そんな日々の中で この両足を支えるものは これまでに流した血への執着だけだ!流した血の量だけが 私を奮起させる!
血塗られ続けること 果てしなく血を注ぐこと それが私の望みだったのかも知れぬ。
だが どうやらそれも これまでのようだな・・・
320 リタ それじゃこの子は?この子はどうなるのさ!?あんたの娘だろ!?この子じゃダメなの?あんたの生き甲斐にはならないの!?
バルザック 娘ではない それは・・・アネットは・・・我が妻だ。
リタ ええっ!?
バルザック それには もう何も分かりはしない 私が誰なのかも・・・
ナレーション バルザックは懐から小瓶を取り出しガッツたちに向けた。
バルザック これは 核から抽出した薬だ あらゆる病に効くといわれている薬を 私は妻に与え続けた・・・
薬は確かにアネットの体から病を消し去った しかし 消えてしまったのはそれだけではなかった。
全ての記憶と 私と歩む時間さえ奪い去ってしまったのだ!
リタ ど どういうこと!?
バルザック 彼女はこの先も 永遠に童のまま微笑み続けるであろう・・・
ただ 私だけに 全ては積もっていくのだ・・・
パック なんだか・・・ガッツとキャスカみたいだな。
リタ 違うよ・・・ガッツだちは 違うよね?
330 バルザック 所詮血塗られし道よ!ならば私は進むまでだ!
ガッツ なにっ!?
ナレーション バルザックは小瓶の中の薬を一気に飲み干した。
バルザック うおおぉぉぉぉぉっ!
ナレーション バルザックの肉体は瞬く間に隆起し屈強なる戦士へと変貌していく。
毛は逆立ち目は充血し体中の血管が浮き出ている。
バルザックは大斧を構えると一気にガッツへ切りかかる。
ガッツは大剣でなんとか一撃を受け止めると返す刀でバルザックの腕を切り落とす。
だがバルザックは怯むこと無く片手で大斧を構えると体を回転させ斧を振るう。
ガッツが斧を受けた瞬間、バルザックの腕から吹き出た血飛沫がガッツの目に入った。
ガッツ クッ!
ナレーション ガッツは目を閉じ、五感を研ぎ澄ますと バルザックの動きを感じ取り大剣を振りぬいた。
一瞬の間をおいて、ガッツの耳にバルザックの体が倒れる音が聞こえた。
パック キャスカはこっちだよ!早く!
ナレーション パックの先導でたどり着いた大広間では、合体し大広間一杯に巨大化したマンドラゴラが蠢いていた、中心にキャスカの姿が見えた!
パック キャスカあっ!なんてこっちゃあぁぁぁっ!
340 ガッツ どいてろ!
ナレーション ガッツは両腕を広げると勢い良く両耳を手の平で叩き鼓膜を破った。
両耳から血を滴らせながら迷い無く巨大マンドラゴラ目掛け飛び上がり大剣を振るう、振るう、振るう。
振るうごとにマンドラゴラの絶叫が響き続けた。いつしかキャスカを包むマンドラゴラは全て絶命した。
倒れこむキャスカをガッツが抱きしめる。
ガッツ キャスカ! おい! しっかりしろ!
キャスカ う・・・ ん・・・
ガッツ・・・?
ガッツ キャスカ! 解るのかっ 俺が!?
キャスカ ガッツ・・・ 私 夢を見てた・・・ 悪い夢・・・
ガッツ キャスカ
キャスカ ガッツ・・・

うっ!
ガッツ キャスカ! おい! キャスカーーっ!

キャスカ!?
キャスカ 【気狂いの言葉使い(喃語)に戻る】
う・・・ あはは・・・ あは・・・
350 ガッツ キャスカ・・・
パック マンドラゴラに取り憑かれてたおかげで 一瞬だけ元に戻ったんだ。
正気を狂気に・・・ それが逆にはたらいて。
リタ そんな・・・ ガッツ
パック !やばい!城が崩れる!みんな早く!こっちだよ!
ナレーション バルザックの城が、崩れ始めた。
床に倒れたままのバルザックの横でアネットが童のように笑っている。
バルザック ついに・・・この身を血に染める時が来たか・・・

フフ おかしいか? そうか・・・確かにな。
ナレーション 城は崩れ落ち、その姿を残骸へと変えた。
パック どうにか騒ぎも落ち着いたみたいだね。
ガッツ そうでもねえさ。
ナレーション マンドラゴラの大樹が枯れ、マンドラゴラ憑きとなっていたものは人間としての意識を取り戻した。
だが、マンドラゴラ憑きだったという過去は、荒みきった人間の心に迫害の縦構造を生み出し続けた。
街の人間は同じ人間に石を投げ打ちのめした。
360 ガッツ そう・・・えげつねえもんさ 人間ってのは。
ナレーション 夜が明け朝日が差し込む頃、荒野にガッツたちはいた。
リタ ここで お別れだね。
パック リタ 一人で大丈夫?
リタ バカにしないで 今までだって ずっと一人でやってきたんだから心配いらないよ。
ガッツ 風みたいに どこへでも一人で・・・か。
リタ あたしも いつか見つけちゃうのかな・・・血を流しても惜しくない 何か。
へへっ 元気でね!
ガッツ ふっ・・・ ああ。
リタ それから・・・ 忘れないよ あんたたちのこと。
ガッツ へっ。
370 ナレーション ガッツはキャスカを連れ歩き出した。
パック ああっ! ったく 相変わらず冷たいヤツだよな〜 気の利いた台詞の一つも言えんのかね。
ガッツ あ〜あ うるせーうるせー
ナレーション リタはガッツたちの後姿を見送りながら呟いた。
リタ ありがとう・・・
Fin